り、今後の女性画家研究は男性画家や画壇全体を含めた、より包括的な方向へと展開してくべきであると考える。研究の意義・価値本研究では主に、明治から大正にかけて活動した女性日本画家を対象とする。すでに指摘したとおり、この時期の女性日本画家については、奥村晴湖や野口小蘋、上村松園、島成園など、主たる画家の作家研究がそれぞれにあるのみで、本格的な画家や作品の掘り起こし、また総合的な視点からの考察は未だなされていない。さらにこの時期は、これまで研究の盛んに行われてきた近世と、大正期以降の戦前戦後の時代とをつなぐ位置にあり、女性画家の活動の展開をより大きな視野で捉えようとするために、欠くことの出来ない時代である。本研究の意義はまず、ここにあるといえよう。また本研究では、個々の作家研究はもちろん、そうして浮かび上がってきた点と点を結ぶ、女性画家のネットワークの解明も積極的に行っていきたいと考えている。女性画家たちは大正期以降にさまざまな団体が現れはじめる以前から、互いに交流をしていた。とくに同じ席上で互いの揮毫を目にする機会があったことや、研究会などでともに批評を受けるような機会があったことなどからは、女性画家が男性画家だけでなく、他の女性画家からもさまざまな影響を受けつつ制作を行っていたことが想像され、作品研究にも大いに与するものであると考えている。さらに本研究では、女性画家に関する研究をとおして、既存の近代美術史に対する、新たな視点の提示を試みたいと考えている。現在の美術史において女性画家はひと括りにされて見られがちだが、そこにも日本画・洋画の違いにはじまり、流派や時代によってさまざま活動が行われてきた。特に先に挙げた交流のようすをより明らかに出来れば、女性画家による構造的な美術史を構築することも可能になるだろう。たとえば近代美術史の展開が、龍池会と鑑画会、日本美術協会と日本美術院、官展と在野展といった構図で捉えられてきたように、女性画家の活動と交流の展開を構造的に捉えることが出来るのではないかと考えている。そうして立ち現れてきた新たな視点から、既存の美術史を見直してみたい。このような試みの成果のひとつとして、現時点で考えられることとしては、従来旧派として等閑視されがちであった日本美術協会への見直しである。同会には多くの女性画家が会員として所属し、研究会などでも女性画家の活躍が目立つ。明治期の女性画家の活動において、日本美術協会は重要な意味を持っていたと考えている。―78―
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