鹿島美術研究 年報第35号
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薩摩大隅における中世仏神像の基礎的考察韓国とフランスにある関連資料も幅広く視野に収めながら、山田の「越境の記録」を解き明かそうとするもので、本研究において初めて、彼の画業の全貌が明らかになることが期待される。加えて、日韓の近代美術史における山田新一の位置付け及び、彼の越境の記録が持つ意義を真剣に考え直す契機を築くこともできるに違いない。研究者:熊本県立美術館主幹意義・価値1,本研究で、これまで未調査であった地域を調査することにより、仏神像等の新発見が期待される。調査完了後、それらの新出作例を精査し、研究者間で情報共有することによって、薩摩大隅地域の中~近世仏教美術史的な知見は長足の進展が期待されるところである。2,また、それらの新出仏神像等のなかには、様式的、図像的に①大陸からの請来作品、②わが国畿内様式の規範下の作品、③大陸の影響を受けた融合的な作品、などの存在が想定される。本調査研究を実施することにより、当該地域の仏教美術史的研究の進展にとどまらず、将来的には、同じく境界地域に位置する東北地域の仏教美術との比較検討の可能性や、ひいては日本仏教美術史の多角的な検討に資する意義が期待される。構想1,本調査研究によって、短期的には、他地域に比して圧倒的に数少ない薩摩大隅地域の仏神像等、中~近世仏教美術資料の知見をできるだけ増加させることを目指す。既知の仏神像等が増えることによって、当地域についてのより確かな仏教美術史像が得られるものと期待される。2,調査成果をもとに研究を進めるにあたっては、当該地域の中世史研究者、考古学研究者との共同研究が必要となる。とくに大隅国正八幡宮を中心とする八幡神研究や、平安期以降の大陸との貿易拠点とみなされ、貿易陶磁の大量出土地でもある薩摩半島東シナ海側の「持躰松遺跡」(南さつま市金峰町)研究等の知見を取り入れることは重要である。筆者は、平成28年度から熊本・鹿児島・宮崎の中世史研究者、考古学研究者とともに「四州(薩摩・大隅・日向・肥後)研究会」を立ち上げ、中世を中有木芳隆―81―

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