鹿島美術研究 年報第35号
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豊臣秀吉「大鷹野」と鷹狩図屏風―84―水野裕史Londres: Reproduction intégrale du manuscrit du XIIIe siècle accompagnée de planches tirées de Bibles similaires et d’une notice, 5 vols, Paris, 1911-27)はフォリオの余白を切り取った表の絵の部分だけを写したものであった。余白やフォリオの裏面には価値が見出されない仕様であり、ラボルド自身、そう考えていたのであろう。ハウスヘアのVienna 2554写本のカラーのファクシミリ版(Reiner Haussherr, Bible moralisée: Faksimile-Ausgabe im Orignalformat des Codex Vindobonensis 2554 der Österreichischen Nationalbibliothek, 2 vols, Graz & Paris, 1973)もその仕様上、裏面はない。2002年の『聖ルイの聖書』、トレド写本(Biblia de San Luis, ed. Ramón Gonzálvez, Barcelona, 2000-2002)になると、表の絵や余白もほとんど再現され、ある程度、フォリオの裏面の再現に加え、皮の装丁や金属の留金なども再現されている。2010年のfrançais 166のファクシミリ版に至っては、フォリオのよれや歪みまでも再現されている。研究者の価値観による取捨選択から、よりオリジナルに近いあるがままの状態、事実に価値が見出されるように変化してきたと言える。ミリ版(Alexandre de Laborde, La Bible moralisée: illustrée conservée a Oxford, Paris et 筆者自身の研究方法もオリジナルである写本原本を精査することを基本とし、その下絵や表現の技法から、何が描かれているかを確定するものである。それ故、取捨選択された一部の画像に基づく過去の研究の誤謬を指摘し、修正することができる。また、『ビーブル・モラリゼ』自体が本来持つ類比的関係から、聖書図像と解釈図像を総合的に解釈することは、図案考案者や画家の意図に沿うものである。更に写本間の比較検討により、それぞれの写本の特徴を浮き彫りにすることができる。更に5写本の対照表の作成は今後の『ビーブル・モラリゼ』研究を志す者にとってよき手掛かりとなり、『ビーブル・モラリゼ』研究の発展に貢献できるものと考えられる。研究者:筑波大学芸術系助教本研究は、豊臣秀吉が天正19年(1591)に尾張や美濃で催した「大鷹野」と鷹狩図屏風との関係性について明らかにすることを目的とする。具体的には、この大鷹野が描かれた狩野永納筆《秀吉鷹狩絵巻》下絵(京都大学総合博物館)を糸口に、様々な

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