鹿島美術研究 年報第36号
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近代日本画における仏画の受容について―入江波光の模写と創作を中心として―研究者:笠岡市立竹喬美術館学芸員意義・価値近代における作家達の創作の源泉を解明することが出来る。近代においては、万国博覧会への出品や1907年から始まる官展の開催などにより、美術の価値は装飾や信仰などの枠組みを超えて独立することとなった。それまでの技術者であった絵師は作家として、芸術の追求という新たな道を歩みだすこととなった。このような状況の中で、作家達が求めたモチーフがどこから生まれたのか、その一端を古画との比較と、美術学校での教育を整理することで明らかにすることができる。模写と古画を比較することで、模写に写しきれていない古画の時代的な特徴について、実証的に述べることができる。このことから古画の特徴をより明確にすることができ、作品を本位とした表現の変遷を明らかにする上での一助となる。同一の古画に基づく異本の模写から、それぞれの時代の特性や個性の違いを明確にすることができる。一例として、法隆寺金堂壁画の模写の比較においては、近代以前の模写も存在し、波光の模写とそれ以前の模写の違いや、近代の模写についても波光のものと、別の作家のもので比較し、作家の無意識的な個性までも明らかにすることができる。東京画壇と京都画壇の違いを明らかにすることができる。模写は基本的に祖本に沿っておこなうという制約があるため、違いを明確に指摘しやすい。東京と京都という二つの勢力があった中で、技法の違いや思想の違いを模写を比較することでより実証的に考察することができる。構想今後、本研究の成果を笠岡市立竹喬美術館での企画展で紹介することを考えている。模写が単なる記録ではなく、日本画家たちの創作に与えた影響を解明することで、今後の芸術の創造にも繋がっていくものと考える。他館への巡回展も含めて検討したい。模写について、日本の古画だけでなく、西洋絵画の模写も含めて考察を進めていきたい。波光は1922年には渡欧し、西洋絵画の模写も行っている。西洋画の具体的な受―85―中原千穂

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