鹿島美術研究 年報第36号
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おり、一定期間、同研究所やドイツ美術史研究所および大聖堂美術館において研究滞在することは、《リブレット》研究に多大な進展をもたらすだろうと期待できる。期待できる成果としては、具体的には例えば、1.修復時の細部写真の精査により両翼部72点の聖遺物の同定がある程度可能になる2.素材と技法についての詳細な情報の入手によって、中央パネルにおける精細な切り取りないし刻線による受難具図像表現について、その制作背景をより狭い範囲に絞ることが可能となり、フランス王家における金細工作品の供給元についての研究を進展させうる3.容器カヴァー両面のミニアチュールについても、従来、様式的観点のみから推測されてきた画家同定について、より多角的観点から蓋然性の高い議論が可能となる4.7枚のパネルの接合形式についてや各パネルを覆う透明板、エマイユ細工についての素材・技法についての情報を得ることにより、当該容器の携帯用折り畳み聖遺物容器としての性格をより際立たせ、類例との比較研究をより緻密に進めることができる等が挙げられる。本研究によるこうした結果をまとめた《リブレット》についての包括的研究の成果を、さらに、フランス、ベルギー、ドイツ、ポーランド等の美術館での関連作品調査の際に先方に開示することによって、より緊密な情報交換、研究交流を促進することになるだろう。また、事前交渉の段階で、多くの刺激を受けた上に、金細工修復関連の研究集会への参加を勧められ、近い将来の共同研究の可能性についても打診された。西欧中世の懐炉(手炉)について調べた際に、文化背景が異なりながらも技法や素材を等しくする香炉が正倉院や中国、イスラム文化圏にも伝わることを知り、影響関係が無くとも類似する金細工作品の国際的な比較研究の可能性に関心を抱いたが、修復研究者との有機的な情報交換はこの分野にも有効に作用すると思われ、今後、修復研究者との共同研究の可能性を探って行きたい。―109―

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