鹿島美術研究 年報第36号
128/150

堀内正和の1957年サンパウロ・ビエンナーレ出品作にみる国際的同時代性の研究来の主題解釈などを中心とした研究、受容研究とを結びつけ、本研究領域に新たな認識を持ち込むことになろう。さらに本調査研究は、長く西欧美術の視点から語られてきた彼の作品をロシア美術の流れに改めて組み込むことで、19世紀と20世紀のロシア美術を繋ぎ、西欧と東欧の前衛美術の橋渡しをしたことが明確となり、新たなカンディンスキー像が築かれることになると思われる。研究者: 大阪大学大学院文学研究科博士後期課程、 神奈川県立近代美術館学芸員意義・価値・構想等①抽象表現から日本近代彫刻史草創期を再考日本近現代彫刻史の研究は、銅像・記念碑といった彫刻の制度研究、あるいは人体表現の様式研究が中心となってきた。近年は田中修二『近代日本彫刻史』(国書刊行会、2018年)などで戦時中の作品についても研究が進んだが、抽象作家が正面からとりあげられる機会はほとんどなく、作家の基礎研究さえもままならない状況にある。その背景には、抽象彫刻は戦後の1950年代の国際化の流れの中にあり、西洋から日本への伝播─受容といった単純な様式論では解釈できないことがまずある。またその登場と同時に歴史化が行われたため、抽象彫刻の草創期を歴史的に研究するためには、特に中心となった今泉篤男を中心とする国立近代美術館が1950年代をとおしてどのように作品を評価し言説を気づいてきたか一から見直す必要があった。このような抽象研究の膠着状況を改善することに、本研究の大きな意義がある。近代美術館の開館前後、日本美術の「近代性」に関する議論が『美術批評』誌を中心に活発となった。その彫刻史という「物語」の形成において、諸外国語に堪能で抽象の概念を理論面から理解し自作に昇華しえた堀内は不可欠な存在である。彼の国際展出展と今泉篤男の関係に焦点をあてる本研究は、日本の抽象美術の国際的同時代性を彼がどのように理解し、海外に訴えようとしたか明らかにすることを通じて、彫刻という観点から戦後美術史の新たな側面を提示するものである。②戦後日本美術史への新たな視点の提供国際化が著しい1950年代は、日本でも抽象表現の流行が世界と時差なく発展した。―113―菊川亜騎

元のページ  ../index.html#128

このブックを見る