期にあたる。初唐を代表する第57窟などでは、規則性を備える千仏図の描写方法に新たな展開が見られ、三角形が連なるような幾何学的描写が見られるようになる(図3)。その描写の特徴や方法を解明することで、初唐の芸術水準や描き手の特徴などが理解されることが予想される。また、それまで側壁あるいは側壁と天井に配されることが多かった千仏図は、初唐では天井のみに配置する窟が多くなり、南北壁には西方浄土図などが大画面で描かれるようになる。それに伴ってか、千仏図の配色の組み合わせは単純化し、窟空間における千仏図の視覚的特徴の重要性は失われる傾向がみられる(図4)。塑像やその他の図案と千仏図との関係性を通して、初唐窟における千仏図の役割の変化やその要因を考察し、初唐窟から描かれるようになる大画面の浄土変相図等について新たな解釈が可能になると考える。そして、北朝、隋の千仏図の延長線上に、初唐の千仏図を位置づけることで、莫高窟における石窟造営の大きな流れの中で初唐という窟を解釈しなおすことを構想する。―117―
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