鹿島美術研究 年報第36号
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①鳥文斎栄之の肉筆画風研究(2019年)―師・狩野栄川院典信の人物・花鳥・山水表現との比較を中心に―研究者:アトリエ木版画こころキュレーター意義・価値鳥文斎栄之(1756-1829)は、江戸時代の天明(1781-89)後期以降、文政12年に没するまでの長きにわたり、美人画のみならず幅広い分野で活躍した重要な絵師である。天明から寛政期にかけては、錦絵(版画)美人画においてライヴァル・喜多川歌麿(1753?-1806)としのぎを削ったが、寛政10年(1798)頃からは、寛政の改革の影響もあってか、栄之は肉筆画(絵画)専門の絵師に転向している。江戸幕府御用絵師・狩野栄川院典信(1730-90)の門人であった栄之の絵師としての技量は、隅田川を描いた作品が妙法院宮の手を介して後桜町上皇の御文庫に納められたことからも知られるところである。こうした功績のある絵師にもかかわらず、未だに和文モノグラフもなく、その研究は進展が停滞しているのが現状である。先達の研究では、カタログ・レゾネ『細田栄之』(Klaus J. Brandt, HOSODA EISHI: 1756-1829: der japanische Maler und Holzschnittmeister und seine Schüler: Stuttgart, 1977.)において、クラウス・ブラント氏が包括的な研究を試みたが、そこに未収録の作品が多数あることも判明しているため、今後さらなる実地調査が必要である。筆者は過去の研究で、栄之の錦絵作品を対象として、作家の署名書体を整理し、おもに「栄之風」と呼ばれる画風の確立時期や同時代絵師との影響関係、画風の変遷に関する考察をおこなった。一方肉筆画に関しては、筆者は本年度から本格的に研究に着手し、国内外において作品の調査をおこなっているが、作品数が膨大であるため、今後も継続した調査が不可欠である。とくに今回、これまでの研究において明らかにされてこなかった、栄之の師である狩野栄川院典信との影響関係について注目する。栄之と典信との筆法を比較し、画風における受容・相違の具体的な箇所を把握することは、栄之の画業やその作品の真贋―27―染谷美穂Ⅲ.2018年度「美術に関する調査研究」助成者と研究課題 研究目的の概要

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