鹿島美術研究 年報第36号
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②初代歌川豊国と幕末役者絵の制作状況─中村芝翫の九変化図をめぐる考察―(1)初代歌川豊国研究の現状を検討するうえで、きわめて重要な課題のひとつであるといえる。栄之の肉筆美人画や画巻(春画含む)には、正当な狩野派を学んだ跡がみとめられ、人物以外─たとえば花鳥・山水─を主題とした作品も散見される。しかしながら、栄之の早期の画業は依然として不鮮明であり、栄之と典信の筆法・画風を詳細に比較した考察研究は、これまでには見受けられない。そこで筆者は、両者の相互の綿密な比較検討をおこなうことで、栄之研究に新知見を加えることができるものと考える。構想典信、栄之両者の作品群のなかで、画題が類似しているものを対象に、国内外の博物館美術館において、両者の作品(おもに絵画)群の実地調査をおこなう。またそれと並行して文献調査をすすめる。そして、実地・文献調査をもとに筆法・画風の比較考察し、栄之作品における典信画風の受容や、画風の相違を整理・分析する。その際、春画作品を含め、人物・花鳥・山水表現について、それぞれ比較考察に取り組む。人物は、女性像のみならず、両者がよく描いた福禄寿や、春画に登場する男性像を対象とする。花鳥・山水に関しては、画巻の背景や画中画(襖絵等)に描かれるもの─竹、鶴、波、草木、岩などの描き方にも着目し、主題にも配慮しながら考察をすすめていく。研究者:藤沢市藤澤浮世絵館学芸員「九変化図」の作者である初代歌川豊国(1769-1825)は、歌川豊春の創始した浮世絵画派・歌川派を繁栄させた絵師として知られる。初代歌川豊国は主に美人画と役者絵において人気を博し、特に役者絵においては勝川派以降の中心的な役割を担ってゆく。そして、豊国により興隆した歌川派は、江戸時代末期から浮世絵の終焉に至る大正年間に至るまで、浮世絵界全体を席巻する。さらに、その流れは近代の日本画家への系譜にまで繋がり、歌川派が日本絵画史に及ぼした影響は多大である。これまでの初代豊国の研究については、鈴木重三氏や大久保純一氏により画業の総論がなされている。個々の作品に対する研究については、「役者舞台之姿絵」などに代表される初期作品に対する評価が高く、文化年間以降(1804~)の作品については―28―兼松藍子

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