鹿島美術研究 年報第36号
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⑧歌川豊春の肉筆浮世絵に関する基礎的研究と思われるが、造像年代や作風などを判断材料として復元を試みたい。また、創建期の構成要素から外れる像についても分析を行い、南禅寺の仏教文化圏の性格を検討したい。Ⅳでは各地の薬師如来を中心とする9~10世紀の群像との比較を行いつつ、造像を担った集団や尊像構成の背後にある思想について考察。その作業の中で南禅寺仏像群の性格や当地に存在している理由などについて考えてみたい。研究者:大分県立美術館学芸員本研究で取り上げる浮世絵師・歌川豊春(1735-1814)は、史上最大の浮世絵一派を形成した歌川派の祖として知られる。豊春に関する先行研究において、最も注目を集めてきたのは、画歴の最初期にあたる明和~安永年間(1764-81)にかけて世に送り出された各種の“浮絵”版画についてである。岡泰正氏、岸文和氏、野村文乃氏らの詳細な先行研究によって、豊春の浮絵の編年や制作背景、その図様の典拠、革新性などが明らかにされてきた。一方で、天明年間(1781-89)以降、円熟期の豊春は、肉筆浮世絵の制作に専心したようであり、美麗な色彩による一点ものの肉筆美人画を多く描いている。豊春の画業では、まずは浮絵の功績が注目されてきたが、豊春はかなりの数の肉筆画も遺している。不特定の購買層を想定する版画と異なり、ある特定の享受者を想定して描くことが多い一点ものの肉筆画の制作は、豊春の浮世絵師としての本来の特性や、その交友圏、絵師としての活動状況等を考えていく上で、欠かすことができない重要な側面である。本研究では、豊春の肉筆画群を整理するため、まずはその落款・印章等の形式の種類や変遷、また構図の特徴や人物等の表現にみえる様式的な特徴を把握できるよう、実地調査を踏まえて得られたデータをもとに入念な分析をおこない、豊春の肉筆画の編年作業を試みる。まずはその足掛かりとして、国内に所在し、未だ筆者が未調査の作品の調査を進め、豊春の肉筆画作品にかかわる詳細なデータベース作成に着手する。本研究によって、今まで十分に考察が加えられていなかった歌川豊春の円熟期の画業、すなわちその肉―37―宗像晋作

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