⑨ピカソ「青の時代」の絵画に隠された制作のプロセス筆画の編年をはじめ、様式の特徴と変遷についての分析、そして豊春の浮世絵師としての特性について、より具体的、実証的な把握を進めることが第一の目的である。また、浮世絵師の多くがそうであるように、豊春のバックグラウンドにかかわる情報には不明瞭な点が多く、最も基本的な経歴である出自や師系をはじめ、いまだ確証を得られない事柄が多く存在する。現存する版画作品から、明和4年(1767)には、江戸において浮世絵師としての活動がはじまっていることが確認される。先学諸氏の豊春の出自についての考証があり、久多羅木儀一郎氏や、その考証を発展させた大沢まこと氏の研究において、豊後臼杵藩御用絵師の土師家三代・土師権十郎を、歌川豊春の前身と考える説が出されている。同説は決定的ではないが、詳細に論が重ねられており示唆に富む。本研究では、豊春の肉筆画の調査に加えて、『御会所日記』(大分県臼杵市蔵)をはじめとした、臼杵藩主稲葉家の公式記録等にみえる御用絵師土師家の動向や、実際に臼杵市の寺院等に遺る土師家の画蹟等にかかわる調査も同時進行し、土師家の活動や権十郎についての事績等をさらに明らかにすることによって、歌川豊春の出自や師系問題についての検証材料を追加、整理したい。これを第二の目的とする。以上、二つのアプローチを主として、より包括的な豊春研究を進めることができると考える。歌川派の開祖として一派を率い、その繁栄の基礎をつくった豊春の功績は大きい。豊春は江戸の雅俗文化の中心にいた酒井抱一がその画業の最初期に師事した浮世絵師とも考えられている。浮世絵師・豊春の画業、人物像にかかわる事績がより明らかとなることにより、複雑かつ豊饒な江戸時代美術史・文化史についての解明が前進するものと考える。また本研究の基礎的なアプローチを通して、将来的な海外所在作品の実地調査を踏まえた総合的な豊春研究の展望がひらけるものと考える。研究者:ポーラ美術館学芸課長意義と構想1.ピカソ「青の時代」の研究の補完ピカソの「青の時代」の制作については、今世紀において科学的な調査の進展により、絵画の表面に残された絵画の比較研究だけではもはや充分ではなくなった。作品―38―今井敬子
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