鹿島美術研究 年報第36号
59/150

⑬ジョルジョ・デ・キリコと精神分析再考―ショーペンハウアー、ニーチェ、フロイトの系譜から―り、固有の舎利や固有の像に対する「名物観光」的な新しい信仰が広まっていた。そうした流行の中での立本寺本の制作意義も合わせて検討する。3つ目は〈始興画としての分析〉。前述の通り、始興は多彩な様式を有した画家であった。立本寺本にどのような技法が用いられているのか、実物の調査を通して検討する。調査結果を他の始興画の基準作と比較することにより、仏画以外との技法の違いを明らかにする。また本法寺本と比較することにより、模写によって始興が仏画の技法を学びとり、仏画以外の制作に用いていた可能性を検討する。以上のように本研究は、これまで注目されてこなかった仏画制作者としての始興を追究することでその画家としての像をより立体的に捉えることを可能とする。また、応挙等始興以降の画家と比較することにより、江戸時代における寺院と画家との関わりというより巨視的な問題への手がかりとなる。研究者:日本学術振興会特別研究員PD・成城大学目的筆者は現在、ジョルジョ・デ・キリコとシュルレアリスムの関係を主たる研究テーマとしているが、こうしたテーマ設定からデ・キリコと精神分析の関係を捉えようとすると、どうしてもデ・キリコとシュルレアリスムの連続性を重視することにならざるをえない。その場合、やはりシュルレアリスムがデ・キリコを「誤解」した、あるいは「搾取」したというレベルの批判が生じてしまう可能性がある。そこで本研究では、シュルレアリスムの問題を一旦離れ、デ・キリコ自身の作品や理論が、精神分析とどのような関係を持ちうるのかを問い直したい。それはデ・キリコの形而上絵画の最も重要な理論的根拠であったショーペンハウアーとニーチェの思想を介して可能になる。フロイトは、両者を精神分析の先駆者として位置づけているからである。三者の思想的系譜から、デ・キリコの作品や理論、テクストを捉え直すことで、デ・キリコと精神分析の関係に新たな光を投げかけること、またそれによって、これまでデ・キリコに与えられてきた精神分析的な解釈の可否を問い直すことが本研究の目的である。意義・価値本研究の価値は、これまで曖昧に捉えられてきたデ・キリコと精神分―44―長尾天

元のページ  ../index.html#59

このブックを見る