The International Network of Conceptual Artists 1967−1977 - Dealers, Exhibitions and Public Collections, 2009が決定的だが、1980年代以降についてはまだ調査が及んでいない。しかし、1980年代にはロンドンの複数の画廊が YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)など大きな潮流をいち早く見出し、またパリでは現代美術を扱う行政主体の美術機関が複数設立され、両都市が新たな美術の中心地へと発展する大きな要因となった。画廊を取り巻くこうした時代の変化を踏まえ、作家や美術館、コレクター、画廊、美術機関の関係性をあらためて考察することは意義深いと思われる。すことである。同時期の美術を再検証する動きは各地での展覧会(This will have been: Art, Love & Politics 1980s, MCA:2012、Keywords: Art, Culture and Society in 1980s Britain, Tate:2014, Brand New: Art and Commodity in the 1980’s, Hirshhorn:2018,「起点としての80年代」金沢21世紀美術館、2018年)のほか、個々の潮流に関して、インスタレーションに関する研究(Julie Reiss, From Margin to Center: The Space of Installation Art, 2000)、イギリスで登場した彫刻の動向に関する議論(“Renewing the New: British Sculpture in the 1980s’, British Art Studies 3, 2016)などがある。だがいずれも特定の国や地域、動向ごとに限られ、欧米圏を中心に国際的に活動していたコンセプチュアルアートの作家の位置づけや、ニュー・ペインティングの動向など、欧米各地に共通した傾向を包括的に論じた議論はまだ見られない。美術表現に目を向ければ、1980年代は、1960年代以降に登場した非物質的な美術、いわゆるコンセプチュアルアートやミニマルアートが主流であった一方、それらへの反発として具象絵画が一大潮流となり、新たな表現を模索する動きと様々な価値観の交錯する時期であったといえる。さらに、1980年代後半にはポストモダン思想を反映したシミュレーショニズムやアプロプリエーションの手法も登場した。本研究で扱うかんらん舎所蔵資料の特徴は、様々な画廊を網羅しているため、これまで見落とされてきた重要な作家や動向をも見出すことができる点にある。多方面に分化した動向を正確に把握するには、画廊同士のネットワークや作家を結ぶ横軸の系統的なつながり―46―1990年代頃までの欧米の美術界における現代美術画廊は、他の画廊や美術館、コレクターらとの国際的かつ緊密なネットワークを背景として、いわばキュレーターの役割もになう中心的な存在であった。地元の作家だけでなく、他の国や地域の最新動向を紹介するのも画廊の役割であった。現代美術画廊に関する研究は、1960-1970年代のコンセプチュアルアートの動向をつまびらかにした Sophie Richard のUnconcealed:
元のページ ../index.html#61