旅と信仰の絵画―名所風俗図から東海道図屏風へ―う証言も得られている。また、画業中期の代表作《死馬》について、デッサン帳(油彩画《死馬》の下絵26枚を収録)、およびスクラップ・ブックの分析調査から、図像源の絵画の存在と制作過程が新たに浮かび上がった。その他の作品についても、画家の旧蔵品(スクラップ類、蔵書)の中から図像源と見られる写真図版が見つかってきている。神田日勝が没してから間もなく50年になろうとしているが、この重要な節目を目前に、現存資料の調査分析を掘り下げ、従来の見方を更新し、新たな画家像が構築されねばならない。構想神田日勝は2020年に没後50年を迎えるが、記念巡回展が東京・鹿追・札幌で開催される。筆者はその企画に携わっており、その展覧会も、本調査研究の成果発表の場となる。本調査研究の成果を踏まえ、この先には神田作品の様式変遷の問題に取り組もうと考えている。というのも、神田の絵画様式はリアリズムからポップ・アート、アンフォルメルと多様な変遷を見せるが、それぞれの様式の転換期に参照されたイメージ(曹良奎の油彩画、山口薫のアトリエ写真、海老原喜之助の油彩画)が存在すると考えられる。この視点から、神田日勝の絵画様式の問題を論じねばならない。研究者: 栃木県立博物館学芸嘱託員、 学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程本研究の第一の目的は、往来する旅人に着目することにより、名所風俗図の〈旅〉と〈信仰〉の在り方をみつめ直すことである。たとえば、参詣曼荼羅研究における名所風俗図を中心とした近世初期風俗画に対する関心からは、描かれている人物風俗が共通するといった指摘がなされている。しかし、参詣曼荼羅との大きな相違は、名所風俗図は霊地参詣の絵画であると同時に、参詣に付随する遊覧・行楽、さらには遊楽の姿も豊かに描かれているということである。参詣曼荼羅では、霊地へ向かう参詣者がその機能を決定づけるように、名所風俗図においても在地景観を往来する旅人に注目することで、その特質や機能を浮き彫りにすることができると考える。また、往来―57―久野華歩
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