カラッチ一族と対抗宗教改革期のボローニャにおける室内装飾の研究of Annibale Carracci, Milano, 2008; S. Vitali, Romulus in Bologna: Die Fresken der Carracci im Palazzo Magnani, München, 2011)。本研究は、こうした近年の動向を汲みつつも、異なる角度からの考察を試みるものである。意義・価値の3点のみである。筆者はこれら現存作の作品研究を核に、それぞれの博覧会・展覧会について文献資料や他の画家の出品作などから合わせて検討することで、暁斎と「美術」制度の関わりを解明することを目標としている。このうち《山姥図》については、大学院の2年間で調査研究を行い今年論文にまとめたが、第二回内国勧業博覧会の出品作についてはまだ研究途上の段階である。本研究で、現存する出品作の作品研究と関連資料の考察を遂行し、上述の目標を達成することを目指している。研究者:東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程目的本研究の目的は、カラッチが制作したボローニャの個人邸宅のための暖炉上絵画を、その活動の諸相のひとつとして適切に評価し、カラッチ研究における新たな視座を提示することである。ボローニャのカラッチ一族は、16世紀後期北イタリアの各地方様式を総合し、新たな造形言語を創出した画家として評価されてきた。それはすなわち、16世紀半ばにかけてピークを迎えるマニエリスムの停滞した空気を刷新するような、柔軟な現実観察に基づく自然主義であり、その功績は、パラッツォ・ファーヴァ(1584年)およびパラッツォ・マニャーニ(1591-92年)の大規模な室内装飾に集約されると看做されてきた。その一方で、こうした様式論的文脈とは別に、カラッチの作品を図像学的見地、あるいは一次史料に基づいた実証的見地からあらためて検討しようという動きも、近年、主としてイタリア外の研究者の間に活発に見られる(C. Robertson, The Invention 本研究のひとつの特徴は、カラッチの作品の中から暖炉上絵画に焦点を当てたことにある。同時にここに、本研究の最大の意義および価値を見出すことが出来ると筆者は考える。ボローニャには、カラッチが個人邸宅のために手がけた暖炉上装飾が現存する。こ―65―山本樹
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