第三共和制期パリの区庁舎装飾画―エミール・レヴィ「人生の諸段階」連作における「古代」の意味を中心に―作目的を持つことが推測される。特に右隻に描かれた古楽器は、仏画との関連も予想できる。また守景本は、鳥取藩政史料より、幕末に鳥取藩主の池田家が所蔵したことが判明しており、鳥取藩池田家と守景、さらには大名と舞楽の関連についても追究できる。こうした内容を時間軸で整理することで、守景本の制作年代と背景が明らかとなっていくであろう。以上、本研究では、守景の活躍期と、舞楽及び舞楽図の武家社会への広まりの経緯を照合し、制作年代を提案する。また、鳥取藩池田家との関連を探る事から、守景本の制作の時期と背景について、その一端を明らかにする。これにより、不明な点が多い守景の画業について、今後の研究を進める手がかりとなり、さらには舞楽図の新たな展開に関する研究にも貢献することができる。研究者: お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士後期課程 目的パリ周辺の区庁舎内部を飾る、フランス第三共和制期の装飾画の代表的なテーマの一つに「人生の諸段階」という主題がある。これらの作例に着目すると、19世紀末美術研究において象徴主義の観点から関心を引いてきたこの主題が、戸籍を司る区庁舎の役目をはじめとする、第三共和制の政治や社会の動向と結びついていた側面が浮かび上がる。本研究は、その1870~80年代の作例にみられる、多義的な古代の喚起と宗教画構図の援用という折衷的な表現を、普仏戦争後のナショナリズムや、カトリック・王党派対共和派の対立を乗り越える、共和制の課題といった政治的社会的文脈において考察する。学術的意義人の一生を分割し、各段階の特徴を表す「人生の諸段階」の主題は、従来の19世紀末西欧美術研究において、象徴主義の観点から注目されてきた(Guy Cogeval, “Les cycles de la vie”, Paradis perdus : l’Europe symboliste, cat.exp., Montréal : Musée des beaux-arts de Montréal, Paris : Flammarion, 1995)。その一方でほとんど看過されてきた区庁舎―72―原田佳織
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