鹿島美術研究 年報第36号
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ことを目的とする。現在、2万点もの資料の中で、ある程度の研究調査が進んでいるといえるのは、藤田嗣治関連のごく一部でしかない。それ以外のコレクションについては、これまでほとんど調査がされていなかった。コレクションをある程度まとまって紹介したものとしては、藤田関連以外では、写真集『履歴なき時代の顔写真フランク・E・シャーマンが捉えた戦後日本の芸術家たち』(アートテック、1993年)、展覧会「フランク・シャーマンと戦後の日本人画家・文化人たち」(目黒区美術館、1994年)の二つのみで、前者は写真、後者は絵画作品87点を掲載している。2018年の「河村泳静所蔵フランク・シャーマンコレクション あるアメリカ人が見た戦後日本美術」展開催と『河村泳静所蔵フランク・シャーマンコレクション選』発行は、25年ぶりのコレクション紹介であり、これまで研究者間でその存在だけが認識されていたシャーマン・コレクションの内容を知らせることになり、占領下の日本美術、またかかわりのあった個々の作家研究に重要な資料として注目されつつある。シャーマンが活動に貢献・影響した画家は数多いが、その詳細は、まだ個々の研究者にもほとんど認識されず、作家年譜に反映されていないことも多い。コレクションの調査は、そうした個々の作家の研究を深めることにも寄与するものである。今回の展覧会とコレクション選発行のための調査によって、作家と作品制作年がかなり特定された。しかし、写真については、被写体となっている人物や撮影年が不明のものが多い。また、最近になって新たにシャーマンのアドレス帳などの資料が発見された。写真に映っている人物や場所の特定、アドレス帳のデータ化によって、それぞれの資料の年代を確定していくことができる。藤田をはじめ、藤田と親交のあった画家、新制作の画家、アメリカ人の多くが関心を抱いた版画家、建築家や小説家。シャーマンは、アメリカを舞台とした画家を援助し、ある時期から日本のコンテンポラリー作品も収集している。シャーマン・コレクションのデータ化は、関連する研究者間の情報共有を進めるものである。また、今がシャーマンあるいはその関連のあった作家を直接知る人物に直接調査ができる最後の時期であり、時間の経過とともに、コレクション調査を進めることが困難になっていくと予想される。シャーマン・コレクション調査は、先行する戦後日本美術の研究を大きく進展させる可能性をもっている。―84―

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