鹿島美術研究 年報第37号
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当麻曼荼羅縁起絵の制作と受容に関する研究―中世前期を中心に―大きな目的となる。研究者:青山学院女子短期大学現代教養学科助教1.構想本研究の目的は、中世前期を中心とする当麻曼荼羅縁起絵の制作と受容を考察することにより、当該期の当麻曼荼羅流布における縁起絵の意義と機能の一端を明らかにしようとするものである。当麻曼荼羅信仰をめぐる従来の絵画史研究においては、当麻寺の本尊・当麻曼荼羅(根本曼荼羅)の制作年代や図様、さらには、当麻曼荼羅の同大転写本(建保本・文亀本・貞享本)の制作事情、縮尺転写本の制作事情や図様について、諸先学による検討が重ねられてきた。しかし、転写本と共に布教に用いられた当麻曼荼羅の縁起絵については、特に中世前期の作品に関していえば、既に当麻寺本掛幅や光明寺本絵巻の考察が進められ、当麻曼荼羅流布の多元的展開に即した縁起絵の変容が明らかになりつつあるものの、清浄心院本掛幅や龍谷大学本掛幅のように本格的な作品研究がなされていないものも残る。以上のような経緯から本研究を計画した。2.価値・意義清浄心院本掛幅は、高野山清浄心院の前身である曼荼羅院に転写本と共に伝来した作品であり、龍谷大学本掛幅は、修理銘から大和郡山周辺の浄土宗寺院での受容が推測されている。これらの作品の位置づけを明らかにし、制作事情や受容層を考察することにより、当麻曼荼羅の流布における縁起絵の意義と機能を一層豊かに浮かび上がらせることが可能になると考える。さらに、模本の調査による光明寺本絵巻の復元的考察や、青蓮寺本絵巻の研究による清浄心院本掛幅の復元的考察により、絵巻と掛幅を横断した図様のより詳細な比較が可能となり、このことは、当麻曼荼羅縁起絵の図様の継承や創造の一端を明らかにする意義を持つと考える。本研究はまた、中世後期の当麻曼荼羅信仰をめぐる研究にも資するものになると思われる。中世文学の領域では、当麻曼荼羅をめぐる説話いわゆる「中将姫説話」に関する研究が既に進展している。室町時代以降、浄土宗鎮西派の聖聡『当麻曼荼羅疏』の影響のもと、主人公の「横佩大臣のむすめ」が「中将姫」という固有の名を持ち、―89―成原有貴

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