鹿島美術研究 年報第37号
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MoMAにおけるタイムベースドアート、およびパフォーマンス作品の収蔵に関する研究トルは常に絵画の中に交錯している、と結論付けられた。さらに絵画の観者が多分に意識されているこうした「来迎図」には、必ず儀式の場が想定されているという。筆者もこれに賛同し、中世阿弥陀浄土信仰の表現には、儀礼の内容が多分に関係していると考える。本研究の中心である法華寺本は、阿弥陀幅、観音・勢至幅、童子幅の三幅からなり、一揃いとして法華寺に由緒正しく伝来してきた。しかし、従来、阿弥陀幅と他二幅ではその表現技法上の印象に差があることから制作過程を異にしているとされてきたが、筆者は三幅は少なくとも同時期に同一工房内で制作された蓋然性が高いこと、また制作時期も鎌倉時代の中期にまで遡る可能性があることを改めて指摘したい。加えて、本作の尊格の動性に着目すると、特に観音、勢至、童子は此岸から彼岸へ向かう「帰り来迎」の要素が認められることからも、法華寺本は往生者の存在を前提とする儀礼と少なからず関係をもちうる作品として位置づけられる可能性が高いと考える。法華寺本に直接関係すると考えられる儀礼については、山本陽子氏による指摘がすでにある(「法華寺蔵阿弥陀三尊及童子図の使途に関する一考察」『美術史研究』30号、早稲田大学美術史研究会、平成4年)。筆者は、ここで挙げられた儀礼「本願御忌日梵網大会」、「本願御追善往生講」について、叡尊教団を中心とする勢力によって鎌倉時代以降突発的に起こったものとするのではなく、法華寺という場を慮ればこそ、奈良時代以来の光明皇后による阿弥陀浄土信仰が根源となっていると考える。上記儀礼より、鎌倉時代に至ってもなお、法華寺では梵網経を重視していたことは明白である。奈良時代に光明皇后が重んじた利他行、大乗菩薩戒といったものが継続あるいは復興され、法華寺本の特異な絵画表現へとつながったことを証明できれば、鎌倉時代における阿弥陀浄土信仰の新たな様相を見出すことにつながると考える。研究者:国立新美術館特定研究員ニューヨーク近代美術館(以下MoMA)は、2009年にメディア&パフォーマンス部門を設立した。また、開館90周年の2019年10月には世界的に見ても初めての試みとなるパフォーマンス作品、およびタイムベースドアートを恒常的に紹介する展示室の増設を行った。パフォーマンスやメディアアートに関する歴史的研究は近年盛んになさ―91―小野寺奈津

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