れるようになり、その成果も蓄積されつつあるが、美術館が、絵画や彫刻といった伝統的メディアによらない作品の、収集・保管・展示をどのように進めてきたのかという研究は、これまでほとんどなされてこなかった。したがって、本研究はMoMAが先駆的に取り組んできたタイムベースドアートの収蔵、および部門設立の経緯を捉え直すことを通じて、美術館におけるパフォーマンス作品の収集、さらに今後の展示/再演方法について新しい知見を示すことを目的とする。現在のメディア&パフォーマンス部門の原型は、MoMAの初代館長を務めたアルフレッド・バーが1935年に設立したフィルムライブラリーにまで遡ることができる。アメリカではMoMAが映像を収集対象とした美術館としては初であり、その後も絵画や彫刻部門と同様に、映像やサウンドインスタレーションといった時間軸を持つタイムベースドアートを今日まで継続的に収集してきた。フィルム部門は1994年にフィルム&ビデオ部門へと形態を変え、2001年にフィルム&メディアへと改称する。2006年にはそれぞれが分化しフィルムとメディア部門が独立する形となった。続いてメディア部門自体は2009年にメディア&パフォーマンス部門へと改変されるなど、これまでに部門形態を変化させてきた。しかし、MoMAがこのように収蔵する作品の範囲を拡張させた経緯、およびその際に部門にどのような定義付けを行っていたか、ということについては明らかにされていない。上記を検証するにあたり、MoMAにおけるそれぞれの部門設立とタイムベースドアートの関わりについて、1929年の開館当初から現在までを対象に網羅的に調査を行う。まずは映像を20世紀の重要な芸術表現として捉え、先駆的に収集対象としたアルフレッド・バーの美術館構想を本研究の出発点とする。次に、パフォーマンスアートが全盛期となった1960年代に積極的に美術館内で行われたイヴェントについて調査し、MoMAがどのような趣旨で企画していたかを検討する。また、1970年代以降のメディアアートの急速な発展に伴って、1975年にバーバラ・ロンドンがメディア部門のキュレーターとなり、ナム=ジュン・パイクやビル・ヴィオラのヴィデオアート作品を展示・収集した経緯についても調査対象とする。さらに、2008年以降に実際に収蔵されたパフォーマンス作品の内容についても明らかにし、どのような作品であれば収蔵および再現性の担保が可能と考えているかを検討する。以上の調査を通じ、MoMAの過去の活動と美術史およびメディアの発展について比較検証することで、MoMAがどのような問題意識から部門の枠組みを更新し、パフォーマンスを収蔵するようにな―92―
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