なく造形表現が行われている。作例数の増減は信仰の盛衰と何らかの関係を有するとも推測されるが、この点についての先行研究での言及はほとんど認められず、地域内の差異についても看過されているのが現状である。本研究はこの問題点に着目し、美術史学的観点、すなわち作品群を弥勒及びその他の尊格に対する信仰の造形化としてとらえ、それらから当該期の弥勒信仰の様態を明らかにすることを目指すものである。その手法として、莫高窟の窟内プランから信仰様態を明らかにすることを試みる。これは弥勒の表現のみに着目するのではなく、莫高窟において当時どのような信仰がなされていたのかという大局的見地に立ち、その中で弥勒に対する人々の思想・信仰を相対化して明らかにする、これまでにない研究である。また、同時期の中国東方の作例にも目を配り、東西に分裂していた北朝における信仰の差異や、両王朝の境界域での様態についての検討を試みる。以上のとおり本研究は、莫高窟において先行研究で明らかにされてきた北魏・隋の弥勒信仰の様態に加え、その中間の時期の西魏・北周の様子を解明するものであり、連続的な変遷を明らかにできる点に価値がある。また、同時期の中国の東西間での比較により面的な差異も詳らかにすることが可能で、この点にも本研究の価値を認められる。研究構想としては、まず西魏・北周における弥勒の作例の検討を行う。すなわち、莫高窟及び同王朝内の他の石窟等に残る作品から、西魏・北周において弥勒がどのように表現されているかを明らかにする。2020年度には、前年及び当該年の実地調査に基づき、莫高窟の窟内プランの検討を行う。実地調査の際に弥勒の造形作品の有無と併せ、主尊や各壁面の図像について精査し、当地において、及び帰国後にそれぞれの主題に関する検討を行う。それに基づき各窟の窟内全体を通底する構想について明らかにする。また、東魏・北斉における造形表現については、先行研究や公表されている図録、及び実地調査に基づいて地域ごとの傾向や特色をまとめ、西魏・北周のそれらとの比較検討を行う。―97―
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