鹿島美術研究 年報第37号
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フリーダ・カーロの自画像にみる「民族衣装」の聖性2004年、フリーダ・カーロの死から50年を経て、生家の閉ざされていた浴室から「遺品300点」が新たに発見された。それらはフリーダが着用していたメキシコの民族衣装を含む多くの衣類、コルセット、アクセサリー、化粧品、医療品など、その日常を物語る重要な品々だった。フリーダはメキシコの民族衣装、なかでも「テワナ(Tehuana):メキシコ南部イスモ地方のサポテコ族女性」の衣装を日頃から好んで着ていた。メキシコ民主革命(1910-1917)後の「文化ナショナリズム」において、メキシコ人としての「民族アイデンティティ」を強調するために身につけたとされる。近年、フリーダ・カーロ博物館が中心となりこれらの衣装の調査をもとにフリーダの「装い」に関する研究がおこなわれている。2012年から2014年にかけてメキシコでの「人は見かけによらない:フリーダ・カーロの衣装」展にはじまり、2018年にはイギリスのヴィクトリア&アルバート博物館、2019年にはアメリカのブルックリン美術館で同内容の大規模な展覧会が開催されている。―98―大友真希 研究者:多摩美術大学芸術人類学研究所民族デザイン史部門担当員 本研究では、以上の近年のフリーダ衣装研究を参照し、メキシコ諸民族の衣装を身につけた「聖なるセルフ(self)」が描かれている自画像と、フリーダが身につけた「民族衣装」の比較検証をおこない、両者の関連について考察することを目的としている。本研究は、フリーダ・カーロ博物館所蔵の衣装からメキシコの民族衣装に当たり、その分類と細部のリサーチを進めるとともに、フリーダ作品を所蔵するメキシコ国立近代美術館、ドローレス・オルメド美術館、フリーダ・カーロ博物館などにおいて民族衣装が描かれた自画像の検分に基づくリサーチをおこなう予定である。従来のフリーダ研究では、革命時代の背景とフリーダの壮絶な人生:身体的苦痛と精神的孤独が合わさった「ソーシャル(社会・政治的)」かつ「パーソナル(個人的)」な表象世界が描かれているとする作品解釈が主流である。さらに、《メキシコとUSAの国境に立つ自画像》(1932年)、《死を考える自画像》(1943年)などに見られるプレヒスパニック期の文明を発端とする、植物や動物、太陽と月、骸骨、古代の祭場や神々の土偶をモチーフとして、メキシコの伝統的「死生観」や「生命観」を取り入れることで「エスニシティ(民族性)」を「自身」と融合したとされている。その多

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