[意義と価値]Altarpieces and Their Viewers in the Churches of Rome from Caravaggio to Guido Reni, England, USA, Ashgate Publishing Limited, 2007, pp. 201-260)。つまり、本研究はグエルチーノ研究全体の動向に沿ったテーマ設定であり、図像学的観点からの個別作品研究の拡充という点で価値があるだろう。Wolfger, Sibyllendarstellung im Italien der frühen Neuzeit, PhD Thesis, University of Trier, 2006, pp. 116-184)。なかでもグエルチーノは、他の画家を凌駕する数の依頼を受けており、注目すべきである。しかし17世紀には、同主題と近い表現様式を有する「美徳を表す古代異教女性」主題が複数あり、シビュラも単にその一例にすぎないものとして等閑視されてきた。―100―グエルチーノは初期から最盛期にかけてバロック的様式をとっていたが、ローマから生地チェントへ帰郷して以降は古典的様式へ大きく転向したために、グエルチーノ研究はその変遷理由を問うものから発展してきた。そのため、本装飾に関する先行研究がそうであるように、個別の作品研究においても様式論的観点に基づくものが多く、図像学や図像解釈学的視点に立った研究はいまだ多くはない。しかしながら近年、本装飾に関してもピーギが図像プログラムの解釈を試みたように(Pighi, 2017)、こうした観点の研究が増加傾向にある(例えば、ジョーンズはグエルチーノの祭壇画の機能を、教会からの注文意図と想定される観者との関係から解明した。P. M. Jones, また、作例数の少ない主題である「シビュラ」に着目して本装飾を検討する点にも意義がある。ヴォルフガーが指摘するように、稀有なはずの同主題は17世紀北イタリア、とりわけボローニャ派の画家たちの間で局所的流行をみせ、さらに従来は教会注文による壁面装飾だったのが、個人注文による油彩板絵へと大きく変容する(S. そこで筆者は、グエルチーノの《クマエのシビュラとプットー》(1651年)が聖母を想起させる機能をもつことから、キリスト教主題の範疇でも考察できるだろうことを論じた(「グエルチーノによる一六五一年制作のシビュラ作品に関する一考察」『美術史論集』、神戸大学美術史研究会、第18号(2018年)、107-127頁)。シビュラの登場する本装飾の図像プログラムを考察することは、グエルチーノによる上記の作例等と類似する表現で同主題を手掛けたボローニャ派の画家全体にとっても、その制作背景の見直しにつながる。つまり、本研究はグエルチーノ研究においてのみならず、ボローニャ派研究へも貢献できる点で意義がある。
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