鹿島美術研究 年報第37号
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近代日本画史における基底材としての和紙の研究―今村紫紅の作品を中心に―[構想](1)素材に着目した紫紅作品研究ピアチェンツァの司教座聖堂クーポラは、シビュラと聖母が図像プログラムに含まれており、かつボローニャと同じエミリア・ロマーニャ地方における教会からの依頼という点で、これまでの研究を踏まえて発展させることのできる研究対象といえる。とくに本研究対象は司教と聖堂参事会からの注文であることから、図像プログラムの解釈の過程で、神学上のより詳細な結びつきが明らかになるだろうことが期待される。そのために、プログラムの考案者と目されているリナーティ司教や、司教座聖堂参事会員で神学者のフランチェスコ・マニャーニ(S. PIGHI, 2017)についての文献を精査し、具体的に関連付けたい。また、シビュラと預言者が大きく描かれていることについて、予言への関心という点からも本装飾について考察できるだろう。17世紀の予言文化については、思想史や文化史でも研究の蓄積の少ない領域であるため、それ以前の時代を扱った研究を参考にしつつ、現地の文書館や図書館を利用して関連する文献を渉猟し、本装飾の主題選択への影響を検討したい。研究者: 名古屋大学大学院人文学研究科博士課程後期課程、 福井県立美術館学芸員原田礼帆意義今村紫紅筆「近江八景」「熱国之巻」の研究に関して先行研究を発展させる位置付けのもと、実作品の調査を踏まえて包括的に図様、内容解釈を行い、先行作例との比較を詳細に行う。その上で本作品の特異的表現に着目し、これまで停滞していた紫紅研究に対して素材史という新たな切り口から論じる点において重要な意義がある。また、近代日本美術史の研究に産業発展による基底材の開発の影響という異なる角度の光を当て、紫紅以降の日本画が大画面化し、岩絵具の物質感を前面に出した表現が追求されていくことへの歴史的転換点の再考を促す。価値本研究における価値は以下の2点である。本研究は作品の考察にあたり図様や構図における内容分析のみならず、絵画表現と―101―

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