中世から近世に至る日本・中国における山水画の比較研究―源豊宗の美術史学を踏まえて―a 東京文化財研究所編『美術研究作品資料第6冊横山大観《山路》』(中央公論美術出版、2013年)。b 荒井経『日本画と材料―近代に創られた伝統』(武蔵野美術大学出版局、2015年)。この点で本研究の成果は、近現代日本美術史研究の発展に貢献できると考える。研究者:関西大学博物館学芸員施意義:狩野派の研究は現在、従来の漢画派という認識から脱却し、やまと絵的特質などをも研究の視野に入れながら、雪舟や土佐派などの絵画との比較研究を行い、師承関係や狩野派の流れを汲む周辺絵師についての検討や、制作システムなどについての研究、すなわち、「狩野派」という画派の再構築の研究を中心に進められている。一方、浙派の研究では、作品の規範とされる南宋時代の院体画にルーツをもつことから、明代中期以降の文人画派による批判などの様々な要因から、後世においては長らく軽視され、また作品によっては作者の改ざんもなされたため、再評価をめぐる作者の特定や後世への影響を研究することに重点が置かれている。両者の比較研究については、狩野派の花鳥画はしばしば呂紀らの浙派の作品と比較されるが、山水画においてはまだそのような比較研究が行われていない。しかし、当時の状況、たとえば狩野派の屏風に、日本には生存していない鳥が描かれていることからもわかるように、大量の明時代(宋元のものと称された作品も含める)の絵画が日本にもたらされたことを考えれば、山水画についても、さらに詳細な比較研究が必要であろう。そしてそのような比較研究を通して、狩野派と浙派には共通する特質が見られることが明らかになるはずである。価値:狩野派と浙派に見られる共通する特質の比較研究は、例えば狩野元信による日本化とは何か、何をもって日本的というのかを見極めることにつながる。それは近年注目される東アジアの中の日本美術を構築するものになる。その場合、従来のような東アジアという地域の中の一部の美術という意味ではなく、中国美術とも共通する特質をもつ東アジア美術の一部という意味を示すことになろう。構想:日本絵画と中国絵画とを比較したとき、一つ大きな特徴として日本の絵画には―103―燕
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