近代日本におけるキリスト教布教に活用された聖画像の伝播―ド・ロ版画を中心に―グの70年代に入ってからの仕事の意義やこの作家と日本の関係といった問題の検討の足掛かりとなるという点でも大きな意義がある。研究者:大浦天主堂キリシタン博物館研究課長研究の背景:筆者は2018年度から着任した大浦天主堂キリシタン博物館において、長崎大司教区がパリ外国宣教会から受け継いできた資料の整理に着手した。そのなかに再布教に活用された掛軸装の聖画(ド・ロ版画)が多く残されていることに関心を持ち、ド・ロ版画の研究調査をスタートさせた。その折に、キリスト教宣教文学研究に取り組む郭南燕氏(当時、国際日本文化研究センター教授)の要請を受け、ド・ロ版画研究調査に共に取り組むこととなり、その成果を『ド・ロ版画の旅』(郭南燕編、創樹社美術出版、2019年3月)と、国際シンポジウム(2019年3月、於:上智大学、郭氏主催)において発表した。これまで、ド・ロ版画についてはフランス文学研究者の原聖氏(青山学院大学客員教授)による一連の研究があるのみであったが、郭氏とその他の協力メンバーによる宣教文学・日本美術・中国美術の研究者による研究が発表されたことはド・ロ版画研究において画期的なことであった。筆者は郭氏の要請を受けて、長崎県と熊本県の各地に残るド・ロ版画の残存状況を調査した。ド・ロ版画に関するはじめての体系的な調査となり、現在ではド・ロ版画の残存状況の全体像が明らかとなりつつある。また、ド・ロ版画の原画である版画は、中国における布教活動でイエズス会士ヴァスール神父によって制作されたものであるが、中国の研究者によってヴァスール神父の活動に関する研究が進められており、その研究動向と成果は郭氏が主催した前述の国際シンポジウムと、関西大学・東西学術研究所の国際ワークショップ(2019年6月、内田慶市教授主催)において日本で発表された。ド・ロ版画はヨーロッパ、中国、日本という多文化が融合して生み出されたものであり、国際的かつ学際的な研究対象となる可能性を秘めているといえる。研究の意義と価値:ド・ロ版画や輸入石版画などの聖画の活用、そして伝播という観点は、再布教研究においてこれまでに無い新しい視点から、再布教の実像に迫るものとなる。また、ド・ロ版画の原画は18世紀に活躍したイエズス会士ヴァスール神父が―108―内島美奈子
元のページ ../index.html#123