明治期美術団体「美術会」の研究―曽山幸彦を中心に―作成したものであることから、18~19世紀のフランス、さらにはヨーロッパの美術動向(とくに版画制作)に注目することで、フランス革命後に厳しい状況に陥ったカトリック教会の方針や、その方針が反映したキリスト教美術の流れのなかに位置付けることにつながる。ド・ロ版画は長崎に孤立した聖画ではなく、当時のカトリック教会の情勢や、ヨーロッパのキリスト教美術、同時代の美術動向との関連性や同時代性を指摘し、ローカルな文化財としてではなくグローバルな文化財として評価される可能性を秘めているといえる。研究の構想:ド・ロ版画と輸入石版画の制作年代と伝播の状況に関するデータを取得する。ド・ロ版画の残存状況について、筆者は2018年から2019年にかけて調査を行い、86点を確認している。それらは墨摺りのままのものと、手彩色を施されたものにわけられ、その制作年代にばらつきがあることが明らかとなっている。これらの研究により、ド・ロ版画リストを作成し、その表装等の調査によって制作年代等のデータを集め、ド・ロ版画研究の基礎研究に取り組む。あわせて調査するフランス製の輸入石版画の活用時期を考慮することで、ド・ロ版画の活用時期をしぼることにつながり、その活用時期を明らかにしたい。そこから、再布教の状況の変化や、ド・ロ版画の主題選択にみる制作の目的についても考察していきたい。研究者:学習院大学史料館EF共同研究員本研究は、曽山幸彦(1860~1892)を中心とした洋画家たちの制作と教育から、明治期の美術団体「美術会」の実質的な活動とその影響を明らかにすることを目的としている。「美術会」は、明治美術会に先立つ明治16年(1883)、工部美術学校の閉校時まで画学科・彫刻学科に在籍していた洋画家・彫刻家たちによって結成された団体であり、ジャンルを越えた西洋美術団体としては日本初となるであろう。会の掲げた活動内容は現存する「美術会規則書」から判明しているものの、実際の活動期間や活動状況は不明とされている。このためこれまで近代美術史上に取り上げられることはほとんどなかったが、明治時代中期において西洋美術界のおかれた状況を考える上で、「美術会」の目指していた活動内容は、見過ごすことのできないものとして考察する意義が―109―戸矢浩子
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