鹿島美術研究 年報第37号
132/154

平安時代の地方における薬師如来像およびその随侍像の研究―伊豆地方伝来諸像を中心に―化・美術を研究するための重要な土台にもなる。本研究によって得られる成果は、今後様々な分野の研究に応用することが可能であり、本研究遂行の意義は大きい。研究者:清泉女子大学大学院人文科学研究科博士後期課程 本研究の最終的な目的は、平安時代の薬師如来像を中尊とする群像の地方作例における尊種選択の背景および薬師造像に求められた利益等を明らかにすることである。そのためにも全国各地の主な作例の尊像構成と図像的特徴をまとめ、平安時代の地方造像に共通する特徴を見出したい。具体的には平安時代における全国各地の、薬師如来像に四天王像や梵天像・帝釈天像などが加わって成る群像作例を可能な限りリストアップし、尊像構成について比較検討する。その際、奈良時代以来の官寺に備えられ20世紀第三四半期を中心に、地方仏の観点を取り入れた日本彫刻史研究を展開した久野健氏は1971年に『東北古代彫刻史の研究』(中央公論美術出版)をまとめ、平安時代を中心とする東北地方彫刻史の概要がとらえられた。また同氏『平安初期彫刻史の研究』(1974年、吉川弘文館)でも各地域の作例が紹介されており、平安時代前期の地方造像の特色が論じられている。以後最近に至るまで、中世以前の作例が集中して現存している東北地方や、九州地方などでは、当該地方の仏像を集成した大規模な展覧会が断続的に開かれ議論も活発に継続して行われている。また各地方で県単位などの仏像彫刻の報告や展覧会開催も少なからず行われている。しかしながら、地方造像を総合して中央との対比の中で詳しく論じられる機会は少ないといってよい。個々の作品研究も紹介程度にとどまるものが多い。地方像には伝来不明の作が多く、基準作も限られているうらみがあり、その地域における造像の展開を明らかにするためには、ひとつひとつの作例について、当該時期の政治・文化の中心地であった奈良・京都周辺の作例や同地域の作例との比較を十分に行って検討する必要がある。そのうえで各地域に共通する特徴を取り上げて丁寧に検証し、さらに地域社会の状況とも照らし合わせることで、中世以前、特に平安時代の地方造像の実態をより具体的に浮かび上がらせることができると考える。―117―花澤明優美

元のページ  ../index.html#132

このブックを見る