鎌倉時代の涅槃図における宋文化の摂取についてた尊種および平安時代の中央(京都・奈良・滋賀周辺)の作例との比較を十分に行う。リストアップの過程で、いくつかの作例に共通する尊像の組み合わせや図像的特徴が浮かび上がってきた場合、たとえばこれまでの「放光菩薩」や一具すべてに兜をかぶせる四天王像に関する研究と同じく個別のテーマとして検討する。東京都大島町・吉谷神社伝来諸像や静岡県河津町・南禅寺諸像、同函南町・桑原薬師堂伝来諸像など、特徴的な作例の集中する伊豆半島周辺に注目し、造像の背景を具体的に検討することで、これらの作業を進めるうえでの指標になると考えている。各作品の実地調査を行い、とくに図像上の特徴を取り上げ、この時期の当該地域の歴史的状況などと照らし合わせながらそれぞれの造立背景を考察したい。これらの研究はこれまで具体的にはみえてこなかった地方造像の実態の把握につながるものであるとともに、中央から発信された教義や図像の地方への伝播および展開から、中央作例だけでは考察しきれなかった問題を解決する手がかりになるはずである。中央には平安初期の作例が数点残るのみで、現存作例のほとんどが地方像である観音・地蔵の組み合わせについての研究などはその点において意義のあることだと思う。また現存する仏像の造立事情を美術史の立場から明らかにすることで、文献が残りにくい平安時代における地方の歴史研究にも影響を与えることになると考える。研究者:大津市歴史博物館学芸員現在、国の文化財指定にかかるだけでも、国宝2件(金棺出現図含む)、重要文化財45点(文化庁監修の国指定文化財等データベースによる)もの涅槃図が知られている。筆者は、以前より涅槃図の多様性に着目し、特に涅槃図の図像学について調査・研究を進めているところである。その中で、日本の涅槃図がこのような多様性を得るに至ったのは、大陸からの新しい要素と、日本で独自に発展した要素という2つの要素を、それぞれの制作状況により、巧みに取捨選択してきた結果によるものと考えている。特に近年、中国や韓半島など、大陸において今まで知られていなかった作例が相次いで紹介されており、日本の仏教美術を改めて東アジア全体で見直す必要に迫られている。そのような中で、涅槃図においても、近年大陸で新しく発見されたものが紹介―118―鯨井清隆
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