研究発表者の発表要旨長尾氏白木氏1.逸見(狩野)一信筆五百羅漢図における梵土表象の調査研究九州大学大学院人文科学府博士後期課程単位取得満期退学白木菜保子③研究発表会本年度の研究発表会は5月24日鹿島KIビル大会議室において第26回鹿島美術財団授賞式並びに2019年「美術に関する調査研究」助成者への助成金贈呈式に引き続いて、財団賞授賞者2名とそれに次ぐ優秀者2名、昨年度優秀者1名の計5名の研究者により次のとおり発表が行われた。増上寺本における仮名書き絵入り往生要集の引用等から、一信が当時の信仰や仏教に関する視覚文化を巧みに取り入れ、梵土の構成を図っていたことは先学によって既に指摘されている。本研究では、一信が学僧の全体構成に基づいた上で、如何にして「梵土」を描いたのかを考察した。検討方法としては、梵土表現を模索する過程で一員を代表して、高階秀爾・大原美術館館長から、2019年1月24日開催の助成者選考委員会における選考経過について説明があった後、岡本専務理事より助成金が贈呈され、助成者を代表して長尾天氏(日本学術振興会特別研究員PD・成城大学)から挨拶があった。増上寺(東京)に伝来する五百羅漢図(以下、増上寺本とする)は、幕末の絵師・逸見(狩野)一信(1816~63)がその工房とともに嘉永7年(1854)から約10年をかけて描いた100幅からなる大作である。制作過程においては、増上寺学僧・大雲(1817~76)から一信に対し、戒律を描くべきであるという指導がなされた。本作の魅力は、戒律に裏打ちされた正当な仏画でありながら、西洋画法で構成された新奇な視覚世界と極彩色によって描かれた抜群の独創性である。そのため、東アジアにおける五百羅漢図の伝統から大きく逸脱することを大きな特徴とする。―20―
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