鹿島美術研究 年報第37号
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また、1980年代に入ると、美術の分野でも辰野登恵子、吉澤美香、ひびのこづえなど、女性の表現者たちが自由闊達に表現活動を始めるようになり、90年代以降は、鴻池朋子、やなぎみわを筆頭にますます女性作家が目覚ましい活躍をみせている。宮脇愛子と日向あき子は、ウーマンリブが起こる以前の1950年代に、関東と関西とで場所は異なるが、それぞれ東京と大阪の女子大学の史学科、国文科で日本文化を学び、1950年代後半より美術の分野に足を踏み入れている。宮脇と日向とでは、制作された作品や評論の内容から、一見して共通点がないように思われるが、女性が社会的に活躍することが一般的ではなかった時代にキャリアをスタートした同世代の表現者として、また、ヨーロッパやアメリカの文化に憧れ、欧米の文化を、それぞれの手法で咀嚼して、独自の表現に結び付けた点などから、共通する側面があったのではないかと思われる。宮脇や日向と同世代の、著名な日本人の女性作家としては、草間彌生(1929~)、オノ・ヨーコ(1933~)がいるが、この二人については、滞在期間が長いアメリカでの研究が先行して進み、現在は網羅に研究が行われ、世界規模で回顧展が開かれるまでになっている。一方、日本を拠点に活動した宮脇や日向については、まだまだ研究の余地が残されており、それゆえ本研究により明らかになる点は少なくないであろうと考えている。宮脇については、1950年代末からアメリカ、イタリア、フランス、ポーランド、東京を股にかけて作品の発表を繰り返してきたことから、その越境者としての側面に着目して活動の足跡を追う。2018年に新潟市美術館ほかで開かれた展覧会「阿部展也―あくなき越境者」で、宮脇が師と仰いだ阿部展也に関する詳細な研究がなされている。これら近年の研究成果も参考にしながら現在の視点から、宮脇愛子の立ち位置を改めてとらえなおしたい。日向あき子については、これまでに体系的な研究が行われていないことから、本研究は日向の基礎的な研究になるだろう。筆者がこれまでに継続して行ってきた1960年代~70年代の美術評論の研究を元に同時代の他の評論と比較することにより、日向の独自性を浮き上がらせたい。宮脇愛子と日向あき子、ほぼ同時期を生きた二人ではあるが、二人の間に接点があるわけではない。しかしながら、この二人の女性の足跡を追うことで、1960年代~70年代という時代について、またこの時代の層の厚みと広がりを確認することができれ―32―

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