④工芸作家としてのグラント・ウッド―退役軍人ビルのステンドグラスに関する考察―ばと考えている。研究者:東京大学教養学部教務補佐グラント・ウッドはアメリカ美術史においては、リアリズムに基づいたリージョナリズムの画家として位置づけられ、出身地であるアイオワ州の農民を描いた《アメリカン・ゴシック》(1930年)などの絵画作品によって、アメリカを代表する画家としての地位を確立した。しかしながら、初期においては、絵画のみならず、工芸制作がその活動の中心を占めていた。さらに重要なことに、こういった工芸的技法や造形感覚が、中期から後期にいたるいわゆる代表的とされる絵画作品の様式や主題の形成に大きな影響を及ぼしていたと考えられる。しかしながら、今日に至るまで、この工芸作家としてのウッドの活動や作品と、彼を著名にした絵画作品との関連を考察した研究はほとんどない。また1920-30年代のアメリカにおいては、すでにワンダ・コーンが『ザ・グレイト・アメリカン・シングズ:近代美術と国家的アイデンティティ1915-1935』にて指摘しているように、「使用できる過去」(“usable past”)としてアメリカ合衆国の伝統工芸作品に注目が集まりつつあった。こういった「伝統」への言及は、リアリズムのみならず、チャールズ・シーラーやマーズデン・ハートリーなどのモダニズムの画家たち、あるいは知識人やコレクター達にも共通して見られた傾向であり、この時代の文化ナショナリズムや愛国主義、あるいは大恐慌下の保守・反動的風潮に呼応したものであったと考えられる。すなわち「アメリカとは何か」という問いが一層先鋭化した20世紀前半における、芸術における一つの応答として伝統工芸のデザインが脚光を浴びたのである。そしてウッドもまたそういった社会的・文化的傾向に影響を受け、その芸術を発展させていったものと考えられる。しかしながら、こういったいわば文化ナショナリズムやアメリカ的モダニズムの探求という文脈からウッドの工芸作家としての活動や作品を分析した研究はこれまでにない。世紀転換期アメリカの社会や文化と美術におけるナショナリズムの関係や、反ヨーロッパ・モダニズムの潮流に関しては、バーバラ・ノヴァク、ワンダ・コーン、―33―江崎聡子
元のページ ../index.html#48