⑤江戸の材木商・冬木家の美術品移動に関する総合的研究マシュー・ベイジェルといった美術史家や、歴史家T・J・ジャクソン・リアーズらによって議論されてきた。しかし、こういった議論においては、アメリカ的モダニズムの興隆とウッドの作品を接続するような分析は見られない。よって、ウッドの芸術を工芸という観点から再考する本研究は、ウッドの芸術の再解釈につながるばかりでなく、近現代アメリカ美術における「アメリカ的なるもの」、あるいは「アメリカ性神話の構築」の潮流の一つの具体的事例や証左を示すことになり、結果的にヨーロッパ・モダニズムの亜流としての近現代アメリカ美術というこれまでの図式とは異なる、もう一つのアメリカ美術史像の探求を促進するという点において、意義深いものになると考えられる。研究者:梅花女子大学非常勤講師本調査研究の意義冬木屋は京都の千家の宗匠、覚々斎宗左や最々斎との深い関係から道具を所蔵した。また芸術家との交流では尾形光琳、乾山との親密な交流が確認できる。さらに富裕な家柄であったために中村内蔵助などが闕所となった時には、入札に付された旧蔵品を入手している。このような優れたコレクションは江戸時代中期には閑事庵宗信による『千家中興名物記』に所載される。だが家計の事情から江戸時代中期から後期にかけて道具は流出する。このような優れたコレクション形成と流出は、各時代の文化や芸術家との交流を考える上でも重要なことであるに関わらず、従来の研究では明らかにされていない。そこで本研究課題では冬木屋の美術品収集と移動に着目する。本研究の意義は従来、不明であった冬木屋のコレクション形成と流出の状況を明らかにすることである。また波及的効果として松平不昧をはじめとする江戸時代後期の茶の湯文化での交流を、より克明にすることが期待される。筆者のこれまでの研究では、不昧没後の江戸の茶の湯文化および美術品移動に関する研究があり、これらの研究成果を援用として本研究テーマを推進する。本研究の価値従来、冬木家旧蔵品に特化した研究と、その作品研究や周縁については資料の不足から明らかにされていないのが現状である。冬木屋の所蔵した美術品には作品本体が―34―宮武慶之
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