鹿島美術研究 年報第37号
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優れたコレクションであるため美術史的価値の高い作品を多く含んでいる。また茶の湯道具では、古来より著名な名物道具を多く所蔵した。本研究を遂行することは美術史研究や茶の湯文化研究でも極めて重要な価値を有すると考える。本研究の構想本研究では時系列に次の手順で研究を推進していく。1)コレクションの把握2)流出に関する調査3) コレクション形成に関する調査上述した本研究課題の構想は、実際に作品の調査を行い、さらに付属品や箱墨書などからの情報を研究に活用する。現在、九州国立博物館が所蔵する大燈国師墨蹟「凩」は檀越であった冬木屋が、大徳寺山内雲林院に寄進した作品である。寄進に際して、箱墨書に「上田氏政卿」と自署している。現時点で冬木屋当主による箱墨書として確認できるのは本作品が唯一である。この点から冬木屋の美術品を語る上で重要な作品と位置付けられる。このほか根津美術館が所蔵する松花堂昭乗筆「大津馬」について、『古画備考』では本総すなわち本屋惣吉が冬木家から流出させた作品であることがわかった(宮武慶之『日本研究(第59集)』)。文献などをひも解くことで冬木屋がかつて所蔵した作品の調査をさらに推進することが可能となる。筆者の試験的な考察では、売立目録と江戸時代後期の茶会記から、冬木屋から流出した美術の新たな所蔵者は松平不昧、柳沢堯山、松平周防守などの大名に加え、鳥羽屋(三村氏、材木商)、鴻池屋(永岡氏、酒造)、川村屋(川村氏、材木商)などの江戸の富商が確認できる。これらの所蔵者と道具商である本屋惣吉、竹本屋五兵衛、伏見屋甚右衛門などの斡旋する人物との関係を研究することは本研究において重要である。概要図(図1)では、江戸時代後期の美術品移動と冬木屋の一族との関係について仲介した道具商を中心に研究を推進する。―35―図1流出に関する研究の概要図

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