鹿島美術研究 年報第37号
51/154

⑥ 20世紀の日中美術交流と日本における新しい種類の中国絵画コレクションの形成と評価―日英版の『國華』における瀧精一の文筆活動を中心に―研究者:中国社会科学研究院大学院文博教育センター客員教授 範個別の作品研究を推進し冬木屋当主との関係する作品の美術品的価値と作品に付属する情報の収集、および流出に関係した人物と新たな所蔵者との関係を明らかにすることで、本研究を立体的に構築することが可能と考える。本調査研究は、20世紀の日中美術交流と日本における新しいタイプの中国絵画コレクション(「新渡」)の形成における影響関係の究明を目的とする。特に『國華』の主筆である瀧精一が、「唐宋元明名画展覧会」と「宋元明清名画展覧会」の開催前後において、同誌で展開した文筆活動に焦点を絞って分析を行う。それによって、これらの日中共催による中国古典名画展の開催が瀧精一の中国絵画史認識に変化をもたらし、同誌で刊行した彼の中国絵画論が両大戦間期および戦後の日本の主要な博物館や個人蒐集家による新しい種類の中国絵画の評価と蒐集、およびそれが大正時代の日本の南画復興運動などにいかなる影響を与えたのかを解明する。今までこの課題に関する調査研究は、もっぱら日本人研究者によって行われてきた。研究成果である著書や論文はもちろんのこと、現在利用できる史料の大半も、日本国内の博物館・美術館・図書館および個人蒐集家の邸宅に所蔵されている。これに対して、中国語圏の美術史研究界では、20世紀の日中美術交流、特に明治・大正期の日本における新しいタイプの中国絵画の受容と瀧精一や内藤湖南らが果たした役割、およびそれが大正期の日本南画復興運動に与えた影響などに対する学術的な関心が高い。しかし、日英版の『國華』をはじめ、関連の一次史料はほとんど受容側である日本に所蔵されているため、中国語圏にはこの課題に関する一時史料は皆無に近い。この意味において、本調査研究の計画は、中国語圏発の最初のアプローチであると自負するが、史料面から考えて、数度にわたって台湾から日本に渡航して調査することが不可欠である。また、本研究は、日本国内で広く史料調査を行う予定であり、調査においては、東京、京都、大阪などの主要な都市の国立・公立の博物館、美術館、図書館に加え、地方の私立美術館や資料館および個人蒐集家の邸宅に所蔵されている視覚―36―麗雅

元のページ  ../index.html#51

このブックを見る