⑧戦中・戦後日本彫刻におけるリアリズムとヒューマニズム―本郷新を中心に―関紫蘭と丁衍鏞、中川紀元の関係を解明することで、関紫蘭と日本洋画壇の関係をより明確にすることができる。民国期中国の女性洋画家の創作を通して、日本から洋画や美術制度を受容する中で成立した上海洋画壇の一様相をジェンダー的観点に基づいて明らかにすることが博士論文の目的である。研究者:本郷新記念札幌彫刻美術館学芸員本研究の目的は、以下の3項目にまとめられる。① 戦後の野外彫刻ブームを作った彫刻家の一人である本郷新研究の推進いくつかの展覧会でもすでに検証されているように、本郷新をふくむ近現代彫刻家によって造形された人間像に見られるヒューマニズムは、高村光太郎以来の日本におけるロダニズムの一形態として解釈される(「近代彫刻の歩み―ヒューマニズムの変容/ロダン以後の巨匠と日本的受容」、1986年、いわき市立美術館、「ヒューマニズムの系譜-日本の具象彫刻10人展」、1998年、三重県立美術館ほか)。また、たとえば佐藤忠良の場合のように、人間存在に対するその真摯な眼差しは、作家自身の戦争体験との関連から説明されることも多々あった。こうした先行研究を基礎としながらも、本郷新の場合におけるヒューマニズムを理解するためには、異なる観点からの考察が必要であると筆者は考える。戦後平和運動と不可分な関係にある本郷新のヒューマニズムというテーマは、ロダン芸術との関連からのみならず、戦地に赴かなかった「銃後」の作家の活動や、戦後の彫刻分野にとどまらない文化人との交流の様相と結びつけることによって、理解することができるだろう。《わだつみのこえ》、《嵐の中の母子像》や、北海道における一連の開拓記念碑《風雪の群像》、《勇払千人同心》、《石狩-無辜の民》は、本郷新が戦後の彫刻史に残した独自の足跡を示している。2020年に没後40年を迎え、本郷新に関する研究は、個々の作品に関する基本情報を収集する段階から、同時代の文脈のなかで作品を理解する段階へと歩みを進める段階にある。本研究は、戦後の社会史、政治史的な背景を踏まえて、本郷新の平和思想に裏打ちされたヒューマニズムの形成過程を検討するとともに、その造形の展開を明らかにすることを目的とする。② 戦中から1950年代の野外彫刻制作に関する一事例の提供―39―山田のぞみ
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