⑪雪舟流溌墨山水図の研究―雲谷等顔の絵画的特質について―神学研究に対してもインパクトを与えると考える。研究者:山口県立美術館主任・学芸員桃山時代を代表する絵師、雲谷派の祖・雲谷等顔(1547-1618)の研究は、『没後四〇〇年雲谷等顔』展(山口県立美術館、2018年)において、新出を含む絵画作品と文献史料双方の情報基盤がおおよそ確立し、現在は個々の作品の研究を総合的な観点から深化させていくべき、次の段階を迎えるに至っている。本研究は、あまり研究が進んでいない行・草体山水画のなかでも、草体すなわち溌墨山水図について、等顔の絵画的特質を明らかにすることを目的とする。本研究を進めるに当たっては、雪舟等楊から等顔に繋がる、雪舟流溌墨山水図の系譜を分類・整理する必要がある。とくに謎の多い室町時代の雪舟流画人を含めた作品の様式分析を通して、絵師それぞれの溌墨表現の差異を明確にする。さらに海北友松など中国南宋時代の玉澗に私淑した同時代絵師の作品との比較検討も加えることで、等顔の玉澗様に対する解釈の特異性を考察する。等顔は雪舟流の正統なる継承者としての立場が強く認識されがちであるが、等顔の画風形成には、雪舟受容のみならず、武家・禅僧・商人との幅広い交流のなかで、中国絵画・朝鮮絵画など、雪舟以外に学んだ側面も大きく関与している。等顔の各作品における受容の実態を詳細に分析することで、雪舟という枠組みの中で捉えられがちだった等顔のオリジナリティを明らかにする。あわせて、等顔が大名毛利家のお抱え絵師のみならず、毛利輝元の御伽衆的役割を担っていたことに注目する。それは室町時代の足利将軍家と同朋衆、また大内氏と雪舟との関係性にも通じる所がある。桃山時代の絵師の社会的地位と、作品の主題や画様選択との関連を検討する上で、本研究は有益な成果をもたらすことが予想される。本研究は、等顔研究の進展のみならず、桃山時代という中世から近世への転換期に生きた絵師が持つ時代性や個性を浮き彫りにする意味で、きわめて重要な意義を持つものと判断される。一方で、本研究は江戸時代以降の溌墨山水図研究の発展にも少なからず寄与するものと思われる。―44―福田善子
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