鹿島美術研究 年報第37号
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ものではない。また、戦間期日本のグラフィック広告についての先行研究では、第一に日本デザイン史では、特定のデザイナーによるモダン・デザインの流れを汲む先端的なデザイン表現に注目する傾向があり、特定のデザイナーに拠らない先端的ではない広告デザインを検討する試みは少ない。第二に社会学では、森永製菓(1899年創業)や明治製菓(1916年創業)など製菓会社の広告活動をそのブランド戦略や多面的な広告媒体の活用から評価するが、そのグラフィック分析は十分とはいえない。本研究では、「企業内工房」における図案家・文案家たちが、洋菓子商品のPR誌について、どのような目的のもとで、どのようなデザイン表現を共有・駆使したかという問題意識にもとづき、森永製菓と明治製菓のPR誌を中心に、次の二項目にもとづき調査を進める。・製菓会社PR誌の刊行の目的・史的展開とその背景森永製菓では、『森永月報』(1923年創刊)、『オカシノクニ』(1932年創刊)、『スイートランド』(1935年創刊)、『漫画学校』(1935年創刊)、明治製菓では、『スイート』(1923年創刊)、などのPR誌が確認できる。各誌の刊行目的や刊行に至る経緯、各誌の相互関係や史的展開などについて、江崎商店、新高製菓などの同業他社、三越呉服店、資生堂などの異業種におけるPR誌と比較し調査する。また、各誌の読者欄などを分析することで、これらPR誌の受容のされ方について考察し、PR誌という広告メディアの特性について検討する。さらに、刊行の目的に係る時代背景について、例えばチェーンストア制度の導入による販売流通網の拡大の過程におけるPR誌メディアへの注目など、社会的・経済的コンテクストとの関係についても検討する。・PR誌各誌の制作過程とそのグラフィック分析の比較検討対象となるPR誌の制作過程について、どのような制作陣が関わり、どのような過程を経て作られたかについて可能な限り調査するとともに、その誌面には、どのような内容の記事が選ばれ、どのようなデザイン(図像・文字)及びレイアウト(構成)がされているかを分析する。さらに、各誌におけるデザインの特徴について比較検討することで、他企業とデザインの傾向について共有されているか、差異が図られているかなどについて考察する。また、モダン・デザイン全般の動向との比較、グラフ雑誌、子ども・少女・婦人雑誌、映画雑誌、新聞など他のメディアとの比較も可能な限り行う。こうした研究方法において調査を進める上で、本研究では、特に次の資料に注目す―50―

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