⑱ボストン美術館所蔵円山四条派作品の調査研究研究の価値・資料選択における研究価値:恩地が抽象版画において言語的イメージおよび聴覚的イメージを表現する際の実験の場であったとみなして、純粋芸術ではない本や楽譜の装幀デザインに着目する点に本研究の独創的な価値がある。装幀というデザインの仕事を重要な資料とすることで、より総合的な文脈から、抽象という造形表現の生成の経緯について示す。・方法論的な研究価値:恩地孝四郎の抽象版画とデザインについて考察するにあたり、イメージとテキストおよび音楽の相関関係を問題にした点に研究価値がある。他ジャンル間の芸術表現を綜合する際の絵画的手法を明らかにすることで、日本の初期の抽象表現を考察する際の新たな分析理論を提示する。構想恩地は北原白秋や三木露風らの文学作品を愛読し、自ら詩作をする画家であった。また、〈音楽作品による抒情〉制作前の1920年代には、白秋・露風に限らない多くの文学作品の装幀を手掛けており、その本の表紙デザインには1930年代の抽象版画のイメージに類似したものが存在する。こうした表紙デザインを手掛かりに、恩地が文学作品から受けた印象=言語的イメージを視覚的イメージに変換する手法について明らかにする。さらに、〈音楽作品による抒情〉は恩地と同時代の音楽作品により受けた感動を抽象形態と色彩によって表現したシリーズである。諸井三郎や山田耕作らの音楽により受けた印象=聴覚的イメージを視覚的イメージに変換する際の恩地の手法について、特に考察を重ねる。その際には、恩地が支持していたカンディンスキーの芸術論と恩地の芸術および芸術論を比較するほか、文学作品の装幀と同じく1920年代に多く手掛けた楽譜の装幀デザインについても分析を加えつつ、考察を進める。研究者:ボストン美術館アシスタントキュレーターアメリカ東海岸に位置するボストン美術館(Museum of Fine Arts, Boston、以下MFABと表記)は、国外においては質量ともに最大規模の日本美術コレクションを有する美術館として著名だが、そこに数多くの円山四条派作品が所蔵されていることは今日あまり知られていない。今のところ筆者が把握する限りでも、すでにその作品数―54―竹崎宏基
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