鹿島美術研究 年報第37号
71/154

⑲日本所在高麗時代(918-1392)の鐘に対する編年と文様の研究研究者:学習院大学非常勤講師金1.構想筆者が日本で出土された高麗青磁を調査する過程で、日本に伝世した数多くの高麗鐘を確認できたのが本研究の着想である。高麗鐘は現在78点が確認され、その中で37点が日本で伝来している。この数は日本所在の唐・宋の鐘の数を遥かに越えるもので、平安・鎌倉時代に高麗鐘が積極的に受け入れられたことを証明している。この背景には高麗鐘にみられる浄土を象徴する華麗な文様と高いレベルの出す音・響きを可能にした優秀な製作の技術がある。日本所在の高麗鐘は多様でなお華麗な文様で有名である。しかしこれに対する美術史的な研究は皆無に近く、文様に基づいた編年も行われていない。こうした理由で美術史的な方法論で高麗鐘の編年及び高麗鐘が平安や鎌倉時期の鐘・美術に及ぼした影響などを研究し、日韓の文化交流の様子を深く理解するために本研究を本格的に計画した。2.意義・価値高麗鐘は現在78点が確認され、その中で37点が日本で伝来している。高麗鐘に対する研究は藤田亮策、坪井良平、五十川伸矢など日本の歴史学者や考古学者によって行われ、製作時期・製作者・製作技術などで多くの成果を残したが、器形や文様の変化による編年、金属の分析による出す音・響きの構造などの解明まで至らなかった。本研究では初めて平安・鎌倉時代に高い評価を得た高麗鐘に対する文様・音による編年を行う。これは既存の器形・作り方(有形)などに基づいた平面的な編年を超えて音(無形)の変化を加えた立体的な編年で、アジアの仏教美術における阿弥陀浄土の造形の流れ・特徴及び平安・鎌倉時代の美術における高麗時代(918-1392)の要素の収容・変容を明らかにする重要な基準になる。特に高麗鐘の飛天・楽器などの文様が11世紀の平安後期の仏後壁画・蒔絵箱などでみられることは、平安・鎌倉時代の美術における高麗の仏教・美術の影響を判断する手掛かりになる。そして高麗鐘に対する既存の音源のデジタル化は現代の多くの人々に仏教美術の精髄である極楽浄土を体験させ自分を超えて無我の世界に入る契機を提供する。本研究は日本伝来の高麗鐘に内在している有形(文様)・無形(音)の浄土の造形を発見し、多くの人々にアジアの美意識の根幹である浄土の美を理解させ、人類の新―56―寅圭

元のページ  ../index.html#71

このブックを見る