⑳法隆寺金堂台座画の研究しい普遍的な美の造形の確立に寄与すると考えられる。本研究は結果的にアジアの仏教美術における阿弥陀浄土の有形(文様)・無形(音)の造形を統合・復活に寄与し、現代の多くの人々に浄土を感じさせ、心的な安静・平和を持たせると考えられる。研究者:東京国立博物館研究員法隆寺金堂台座画はその具体的な内容もいまだ明らかになっていない。その意味で、まずは今後の基礎的な研究材料として描き起こし図を制作することに大きな意義がある。これにより、飛鳥時代前期に受容されていた絵画様式が明らかになるとともに、その芸術性についても論じることが可能となる。また釈迦三尊像が聖徳太子の冥福を祈って623年に完成していることからも分かるように、台座画は聖徳太子周辺に受容されていた仏教思想を考察する上で重要な資料である。聖徳太子の思想については『日本書紀』や太子自身がまとめたと考えられる『三経義疏』、また各種の美術作品や考古遺物を通じて研究が行われている。その中にあって、本台座画は仏教絵画の性質上、仏典に基づいて描かれていることから、当時の仏教思想を視覚的に伝えるものとして極めて重要な資料となる。また金堂の諸仏については、これまで彫刻史において詳細な研究の積み重ねがあるものの、その表現された世界を台座画とともに考察したものは極めて少ない。仏典に基づいて描かれた台座画はいわばその上に安置される仏像の視覚的な解説でもあり、仏像と台座画を一体のものとして理解することで、はじめて表現された世界観の全体像を把握することができると考えている。また現在、復元制作を考えている薬師如来像の下座背面について描き起こしを進めているが、興味深いのが台座に表わされた図像が弥勒如来に関係する可能性があることである。すなわち薬師の下座には正面に樹木、両側面に獅子、背面に山中羅漢図が描かれている。仏典によると、未来仏である弥勒は龍華樹のものと悟りを開き、獅子座に坐して説法をする。その後、鶏足山(または狼跡山)という山に赴き、その山で釈迦如来の弟子であった大迦葉尊者より、釈迦如来が身に着けていた袈裟を受け継ぐという。弥勒如来がこの世に現われるのは釈迦如来の入滅から56億7千万年後であり、大迦葉尊者はその間ずっと山の中で禅定をして待っているという。この経典に記された―57―三田覚之
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