横山大観の寄付画について物語は台座画の各構成(正面は龍華樹、両側面は獅子座を象徴し、背面は山中の大迦葉尊者を表わすか)とよく合致している。すると、現在台座に安置される像は薬師如来として信仰されているが、本来は弥勒如来として造立された、あるいは現在とは別の弥勒如来像が安置されていた可能性が出てくる。このように、台座画の研究は金堂に安置される諸仏の本来的な性格を考える上でも重要な指標となるものであり、その研究価値は高い。本研究においてはさらに、この台座画の世界を視覚的によりよく理解できるよう、先述したように想定復元模写図を制作したいと考えている。筆者は2019年、文化財活用センターと東京国立博物館の共同事業として行われた法隆寺献納宝物の「伎楽面呉女」および「伎楽面迦楼羅」の復元制作事業に関わった。その成果は2019年10月14日から開催された「御即位記念特別展正倉院の世界」で公開された。その出来栄えはとても良いもので、1400年近い時間を経過して損傷の著しいオリジナル作品からは想像できないような飛鳥時代当時の華やかな姿を蘇らせることができた。こうした実績に基づき、伎楽面制作を依頼した松久宗琳佛所、または東京芸術大学や愛知県立芸術大学などの研究機関と共同で台座画の復元制作を行いたいと考えている。また模写図を完成させるにとどまらず、どのような研究を経たうえで、模写図が完成し、そこからどのようなことが分かったのかについて、論文のかたちでまとめ、研究成果として広く公開したい。研究者:横山大観記念館学芸員本調査は横山大観の画業の中でも依頼作品、とりわけ寄付画に焦点をあてて精査し、依頼者(団体)と制作背景を確認することを目的とする。大観の画業については、明治期から戦後まで、主だった展覧会出品作はおおむね確認されており、公開施設に収められているものも少なくない。明治期の文部省美術展や前期および再興日本美術院展、帝国美術院展といった公募展への出品作を一堂に会し、画業の変遷をたどる機会も多い。一方、出品作以外の作品に関しては、いまだ全体像がつかめていない。こうした状況は、画業がおもに展覧会出品作から語られてきたこと、出品作以外は画集や雑誌記事といった一次資料が乏しいことなどによると考えられる。とくに、公募展への出品作は往々にして実験的な表現が試みられる傾向にある。明治期に創生された―58―池田博子
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