鹿島美術研究 年報第37号
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柳宗悦の展示創作活動に関する研究―日本民藝館企画展について―体を検証すること、麻生と交友のあった吉井や靉光、松本竣介といった戦時下の画家たちの西洋古典絵画に対する態度を研究することへとつながると考えられる。以上の考察をもって、麻生三郎の戦時下の作品における西洋古典絵画への憧憬とその影響について研究を進めたい。研究者:京都芸術大学非常勤講師本研究は、これまで民藝の研究対象としてほとんど取り上げられてこなかった展示に注目した点に意義がある。民藝運動は民藝品の展示施設の開設を目的とした運動であり、民藝にとって展示が重要であることは認識されている。また、柳は展示を民藝思想の具体的表現であるとし、自身で制作した展示は創作品であると宣言した。柳の民藝思想と展示活動が密接な関係にある。柳の展示を創作物として扱い、その創作過程や作品に込められた柳の思想を明らかにすることで、民藝思想を明確にし、新たな発見が得られる可能性が考えられる。日本民藝館で行われた企画展の内容が李朝や琉球、東北、台湾など、地域や民族に由っている点に注目すると、柳の民藝思想の中にある地域や民族への思想が捉えられるのではないかと予想する。これは、現代にも通じる国際感覚や民族への理解として非常に重要なことである。戦前・戦中・戦後と日本での国際感覚や民族への理解は大きく変動した。その時期に、民藝品を用いた展示によって、柳がその考えをどのように可視化したのかを明らかにすることは、意義と価値のあることと考えている。また、柳が試みた様々な展示方法は、工芸に限らず、日本における博物館展示において、先進的な試みであったと考えている。現在でこそ、展示論や展示デザインなど、展示そのものに関する研究は高まっているものの、展示を創作物とみなした調査や分析は研究として多くはない。柳の展示創作活動を追うことで、展示の創作物としての歴史の一端を示せるように考えている。そのことは、今後の博物館や博覧会における展示活動にも価値をもたらす可能性がある。柳が日本民藝館で行った数多くの企画展の中でも、柳が特に力を入れた企画、繰り返し行った企画、回顧時に特記された企画があり、それらを中心に研究する必要がある。また、視点を変えて、柳が特に意識していた民族問題から、それらに沿った企画―64―原田喜子

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