カミーユ・ピサロの絵画実践とその思想的背景に関する研究―世紀末の美術潮流、文学運動、社会思想との連関に注目して―and the End of Impressionism: A Study of the Theory, Technique, and Critical Evaluation of Modern Art, Chicago, 1984, pp. 70–98, esp. 88.)、印象派の理念はこれまで、自然を前にした際の直截的な感覚経験を描くこと、換言すれば、精神的活動に至る以前の世界像を表すことにあったと考えられてきた。しかしながら、果たして本当に印象派絵画に博物館本は、多くの歴史書やテレビの歴史番組等に当時の堺の町のビジュアルイメージとして使用されてきた。サンフランシスコ・アジア美術館本の出現により、堺を描く二つの「住吉祭礼図屏風」の比較検討が可能となった今、両作の絵画史料としての意義を、改めて美術史学から考察しておくことが求められる。まず、新出のサンフランシスコ・アジア美術館本について、画中の個々のモチーフが何を描いているのか、歴史学や民俗学、建築史学等の研究を参考にして特定していくことから始める。その結果をもとに、サンフランシスコ・アジア美術館本と堺市博物館本における景観描写の差異を明確にし、それぞれの景観年代について解明する。同時に、サンフランシスコ・アジア美術館本および堺市博物館本に共通する図様や画風を近世初期風俗画の中に博捜し、両作の絵師や工房の系統、制作年代について検討する。歴史学や民俗学の研究も参照しつつ、両作の制作意図についても考えてみたい。さらに、両作を中心にして、「住吉祭礼図」や「住吉社頭遊楽図」という画題の、近世初期風俗画における発生と展開について考察を試みる。以上、本調査研究によって、堺を描く二つの「住吉祭礼図屏風」の絵画史料としての性格が明らかになり、美術史学側から歴史学・民俗学等の研究にも資することができると考える。また、「住吉祭礼図」および「住吉社頭遊楽図」という画題の発生と展開の解明に新たな糸口が与えられ、近世都市風俗図の研究の進展に貢献できるだろう。研究者:京都大学大学院文学研究科博士後期課程、 神奈川県立近代美術館非常勤学芸員意義・価値「(印象派の芸術は)思想や主題、物語的要素から何の恩恵も受けていない」というリチャード・シフの言葉に集約されているように(Richard Shiff, Cézanne ―76―深尾茅奈美
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