鹿島美術研究 年報第37号
94/154

今回の調査研究の目的は、海外の日本庭園をめぐる以上のような状況の中で、芸術学の観点からこの現象を評価することである。日本庭園そのものは、庭園史及び一般認識の中で、日本の風土と伝統に基づき高度に様式化されたものとして語られる傾向が強く、海外においてもそれが評価の基準になっている。その一方で、海外では、専門家でない人々(例えば、来日したことがない外国人や日本庭園専門の作家でない人)の手による作品や日本の気候や風景と大きく異なる環境で作られた庭も、広く日本庭園と呼ばれており、狭義の日本庭園との関連性が認められているという二重の現象が起こっている。フランスには、現存するものとしないものを合わせて100を超える日本庭園が記録されており、他の国に作られた日本庭園に比べて、特に自由な創作としての作品が多い。歴史的に見て、日仏間は移民が少ない割に芸術的交流が盛んで、日本庭園に関する定義の曖昧さの中で多様な創作が行われてきた経緯がある。他の芸術分野(最も近い建築、園芸、ランドスケープデザインだけでなく、文学、絵画、彫刻、写真、映画も含む)との影響関係も見られる。フランスの日本庭園を詳細に調査し諸芸術との関係を考察することの意義はいくつか考えられる。まずは、海外の日本庭園研究において、造園学や日本文化研究からの観点に新しい視点を加えることである。次に、日仏間の文化・芸術交流史の中で知られていない一面を明らかにするということである。さらには、これまで日仏間で庭園をめぐる影響関係の研究が少ない理由として、庭園自体が芸術学の周縁に置かれてきたからではないかと考えられるので、その仮定に基づき、芸術とそうでないものを分けてきた価値体系について再考するきっかけの一つとしたい。すなわち、人工物と自然、西洋と東洋、庭園、絵画、彫刻などの既存のカテゴリーを超えた複雑な影響関係を明らかにし、これらのカテゴリーを確立し維持している美術制度について再考する材料の一つにすることが、大きな意味でのこの研究の意義であると考える。―79―

元のページ  ../index.html#94

このブックを見る