ヴェルサイユ宮殿鏡の間の象徴と機能―フランス王ルイ14世の意図―【目的】本調査研究の目的はヴェルサイユ宮殿鏡の間(1678-84年造営)に展示された古代ローマに関連する彫像群の象徴性を建築史と外交史の観点から明らかにし、延いてはルイ14世が意図した鏡の間全体の象徴と機能を明らかにすることを目的とする。鏡の間はフランス王ルイ14世(在位1643-1715年)の命で建てられたギャラリーである。宮殿の2階中央に位置し、宮殿内の交通の要所として多くの人々が行き来していた。これまでフランス芸術はイタリア芸術に倣う傾向にあったが、この頃より独自に発展させた表現様式を模索し始めていた。鏡の間では、ルイ14世を描いた天井画やフランス式オーダー、国産の鏡の大量使用などにより、フランスの繁栄と発展が表現されている。他方、鏡の間には2種類の古代ローマに関連する彫像群が飾られた。1種類は古代ローマ時代に制作された8体の大理石像で、神話の神々を表している。もう1種類は17世紀前半にイタリアで制作された8体の斑岩の古代ローマ皇帝の胸像である。フランスの独自性を追求した鏡の間において、古代ローマに関わる彫像は全体の象徴性と矛盾するように思われる。先行研究ではこれについて問われることはなかった。これまで、鏡の間の装飾については天井画研究の多さに比べ、彫像研究は少ない。Alexandre Maral は建築空間におけるこれらの彫像群の意義を論じてはいるが、浮彫など多様な彫刻装飾の一部として触れる程度である。政治的な意図の存在を示唆しつつ、鏡の間をルイ14世の古代コレクションの聖域と解釈するが、具体的な検証に乏しい(“Hardouin-Mansart à Versailles: l’architecte et la sculpture”, in Versalia, no. 14, 2011)。【意義・価値】鏡の間についてはルイ14世や建築家による文字史料がほとんど残っていない。したがって彫像研究は、鏡の間の象徴と機能に関するルイ14世の意図を推測する手がかりとなるだろう。このための着眼点として、ギャラリー史と王のアパルトマンの移動という建築史の観点と、ルイ14世のヨーロッパでの覇権の主張という外交史の観点を導入し、加えて、鏡の間が当時の鑑賞者にどのように捉えられたかという受容の問題も検討し、その象徴と機能を包括的に見直すことに本調査研究の意義がある。【構想】Alexandre Maral により大理石像の入手の時期やルートから、その展示がフラ―83―神谷友希 研究者:慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学
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