讃岐漆芸における意匠の変化についての研究―帝展美術工芸部門設置の影響を中心に―研究者:高松市美術館学芸員本研究の目的は、昭和初期の讃岐漆芸の作家たちの作品の図様や意匠が帝展出品をきっかけに変化したこと、そしてその変化には、当時交流のあった画家や工芸家の作品や、官展での評価が多分に影響していたことを作品分析から明らかにすることである。また、讃岐漆芸の始祖である玉楮象谷まで遡って作品を比較することにより、江戸時代から継承された図様と意匠が、明治以降どのように変容していったかを考察する。讃岐漆芸の作家については、これまで様々に研究されており、代表的な漆芸家である玉楮象谷、磯井如真や音丸耕堂らについては展覧会が何度も開催されている。住谷晃一郎氏は『讃岐漆芸―工芸王国の系譜』(2005年)において、象谷から現代に活躍する漆芸家までを紹介し、その歴史を詳らかにした。佐々木千嘉氏は、「讃岐漆芸における素材と技術の革新―磯井如真の官展出品作を中心に―」(『美術史』2019年)において、新技法によって新しい意匠が実現したことを述べ、如真が讃岐漆芸にもたらした革新について論じた。これまで作家の生涯とその作品紹介に留まっていた如真研究を進展させる重大な研究である。一方で、先行研究は、作家個々について論じられたものや讃岐漆芸の歴史にのみ着目したものが多数を占め、作品や作家を日本全体の美術史の中に位置づけて論じる研究は未だ少ない。また、特に官展出品作については、技法・技術の巧みさよりも、図様や意匠の斬新さが求められていたことが、当時の言説や特選受賞作の評価を見ても明らかであるが、伝統工芸として技術が注目される漆芸の特質上、研究においても技法面から論じられることが多い。そこで、筆者は近代讃岐漆芸の図様と意匠に着目し、その源泉と、変化に対しての画家や他分野の工芸家たちの影響を考察する。特に、昭和初期に活躍し官展で特選を受賞した磯井如真、音丸耕堂の作品を中心に、彼らが模倣した玉楮象谷の作品の図様が狩野派の絵師たちの影響が見て取れることを指摘し、そして、官展出品作に見られ芸』の製作」『式場隆三郎脳室反射鏡』展覧会図録広島市現代美術館/新潟市美術館/練馬区立美術館石田智子―85―
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