―13世紀のサン=ドニ修道院付属聖堂改築を中心に―德永祐樹聖堂建築における形式と意味の伝播る新しい意匠がどのような背景で生み出されたかを、漆芸作品だけでなく同時期の他の工芸作品や絵画、彫刻との比較や、当時の評価を参照しながら分析する。筆者はすでに「音丸耕堂の官展出品作について―伝統と革新の間」(『音丸耕堂展―華麗なる彫漆世界』2018年)において、耕堂の官展出品作には、同郷であり先に特選を受賞していた北原千鹿らが得意としたアールデコ風の意匠の影響が感じられる作品や器物の蓋部に絵画的に模様をあしらった作品などが存在し、彼が特選を受賞するために様々な意匠を試していたことを指摘している。本研究を進展させることによって、従来の作家論を中心とした讃岐漆芸研究では解明できなかった、画家や金工家といった他分野の作家たちの影響関係が明らかにされる可能性が高く、従来の美術工芸史を横断的に読み解く画期的な研究が可能になると考える。また、讃岐漆芸の始祖である玉楮象谷まで遡って図様を検証することにより、江戸時代から継承された意匠がどのように変容していったかを理解することができる。くわえて、本研究は、讃岐漆芸の作家たちが、中央と関わることによって起こった変革について研究するものであり、見過ごされがちな地方の美術家たちの発展を中央の動向と紐づけ、新たな近代工芸史の一側面を発見することが期待される。研究者:いわき市立美術館学芸員本研究の目的は、13世紀のサン=ドニ修道院付属聖堂改築の研究において、建築史家R・クラウトハイマーが1942年に提唱した「建築の図像学」の視点を導入することにある。最初期のゴシック様式の作例として位置づけられる修道院長シュジェールによる12世紀半ばの改築は、擬ディオニシウス・アレオパギタの新プラトン主義神学の影響が論じられてきた。一方、13世紀の改築については、1960年代以降の厳密なフォルマリスム的研究によってゴシック建築の発展における様式的位置付けが詳らかにされてきたが故に、建築形式が持つ象徴性や意味が論じられることも、図像学的に解釈されることもなかった。しかし、サン=ドニ改築と同時代にルイ9世によって建てられたサント=シャペルの研究においては、建築的着想源としてアーヘンのエクス=ラ=シャペルの宮廷礼拝堂が指摘され、ルイ9世の政治的意図と関連づけて論じられ―86―
元のページ ../index.html#101