古法華石仏の「獅子」―汎東アジアに於ける聖獣図像の位相―してのアイデンティティーを形成する象徴的な空間として性格付け、その意味と役割を考察する。1930年代、居留地の風景を描いたナバホの生徒達は、寄宿学校の授業で進歩的な政策として環境保全計画について学んでいた。その一方で、彼(女)らは、環境保全計画がもたらした居留地の混乱を被った当事者でもある。そうした複雑な立場から制作された居留地の風景画は、表象する側/される側、抑圧と抵抗、先住民と白人といった二元論的な構図とは別のやり方で、殖民国家における風景の表象を分析することを可能にする。研究者:多摩美術大学美術館学芸員、早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程本研究は白鳳時代の石仏として知られる「古法華石仏」(所在地:兵庫県加西市古法華)の下段に陽刻された聖獣「獅子」像に注目するものである。通例の「蹲踞」とは大きく異なるその姿を手掛かりに、同「獅子」を古代中国に祖型を持つ聖獣図像の系譜に列し、「汎東アジア」の中でその存在を捉え直すことを目的とする。この半肉彫の三尊仏龕には如來倚像及び両脇侍立像の他、天蓋や双塔が表現され、これらモチーフの最下段に「獅子」が刻出されている。「獅子」は前後脚を共に立てる特徴的を持ち、さらに大きく胸を反り首を正面に向けて舌を出している。この四肢を立てる姿は通例の獅子図像と大きく異なっているが十分な検討がされているとは言えない。これまでに田岡香逸・高井悌三郎両氏による「左右共に四肢を張って跳躍」(「播磨古法華石仏概観」『美術研究』185 p.269)、伊東史朗氏による「下方左右に四肢を立て、尾を伸ばして歩行する姿」(『狛犬』日本の美術No.279 p.39)にその特異性が指摘されているが、果たしてこの三尊形式に於ける「獅子」が四肢を立て(張)る形状は「跳躍」「歩行」という動的造形を求める為に与えられた造形なのだろうか。古法華の「獅子」は大腿部下方の関節(以下「「後脚関節」と表記)が通常とは逆に後方に折られていることも大きな特徴である。即ちこの「獅子」像の「立てた四肢」のみならず、「後脚関節」が逆に折られた表現も異例であり、特異な姿態を持つこの獅子の成立ロジックを求めることには大きな意義があると考える。古法華石仏の「獅子」備える「立てた四肢」「後脚関節」が逆に折られた表現の原―91―淵田雄
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