型を求めるにあたっては中国・南京の南北朝時代・南朝陵墓に置かれた石獣を特に注視する必要がある。正にこの石獣は「四肢を立て」「後脚関節を後方に折って」いる。これら石獣は皇帝陵と王侯陵によって体躯体の長短、髭は角の有無が使い分けられているが(奈良県立橿原考古学研究所編『図録 南朝陵墓の石造物 南朝石刻』)、ここで注目する脚部の形状は墓主の格付けによる違いは無いようだ。これら石獣が有する基本要素なのであろう。また遡れば漢墓の鎮墓獣の中にも同様の造形が窺える。他、戦国時代・中山王墓出土の「有翼獣」にも脚部に同特徴が観察される。さらに朝鮮半島に眼を転じれば武寧王陵出土の石獣に類型が認められ、我が国では高松塚古墳壁画やキトラ古墳壁画の青龍や白虎には後ろ向きに折られた「後脚関節」が描かれている。脚部の形状を手掛かりに、これら守護を司る「聖獣」の姿勢を「汎東アジア」に俯瞰し図像を読み解くことによって古法華石仏の「獅子」の図像的位相が解明されるのではないか。研究の基盤として、まず古法華石仏の「獅子」に刻まれた凹凸を詳細正確に把握することが肝要であり、斜光線を用いた図像観察及び高精細画像記録を行う。さらにこの度の試みとして3D画像を製作し立体作品の造形把握の精度向上に寄与するデジタル資料を制作する。また、白鳳時代・奈良時代に相当する8世紀を下限とし、書籍、公開Webデータベース等によって日中韓の「聖獣・獅子」をリストアップし、時代、地域に加え造形的特徴について「脚部・姿勢・頭部・口部表現」など具体的な分類によって整理してゆく。このプロセスは、各地現地調査へ向けての基礎資料となるものである。その上で日中韓の最重要例を①中国(南京 南朝陵墓、陝西省歴史博物館)②韓国(国立公州博物館、国立慶州博物館)、③日本(法隆寺、奈良国立博物館)等で現地調査を行い、詳細な図像観察を行う。この三点観測・観察から、本研究の主眼たる脚部を主軸に「姿勢・頭部・口部表現」の比較検討を行い、古法華石仏の「獅子」へと向かう造形の混交と変遷を解明することを構想している。古法華石仏の「獅子」はわが国では異形の造形である。しかし中国で成立した聖獣図像をレイヤーとして本作に重ねることにより、汎東アジアの造形交流の位相へと導く遺例として捉え直すことができる。本研究は、古法華石仏への新たな照射となると共に白鳳時代の大陸・半島の文化・造形受容の実相解明へ寄与するものと考える。―92―
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